ただし、競馬学校、地方競馬教養センターの受験には、技術だけではなく、年齢や体重の制限、健康状態などの厳しい条件があります。競馬騎手になるには、これらの条件をクリアした上で、養成校に合格しなくてはなりません。
JRAは3年間、NARは2年間かけて、学校で競馬騎手としてのスキルを養成します。そして騎手免許試験に合格することでようやく競馬騎手の免許が与えられるのです。
JRAの騎手になるには
1次試験を受ける
JRA競馬学校の1次試験は毎年、8月頃に行われます。
1次試験を受けるために必要な受験票は願書提出後(5月~7月頃)、受験者宛に郵送されます。応募には以下のような条件があり、クリアしている人のみ受験票が届きます。
1次試験の受験資格
・年齢…入学時の年齢が15歳以上、20歳未満
・体重…年齢により上限あり(最高体重が46.0~49.0kg以下)
・視力…両目で0.8以上、左右ともに0.5以上
※矯正器具を用いる場合はソフトコンタクトレンズのみ可
・色別力・聴力・健康状態…騎手としての業務に支障がない者
・その他…精神的・社会的に騎手として適正に騎乗を行うのに支障がない者(詳細は募集要項を確認)
1次試験の会場は、競馬学校(千葉県)・栗東トレーニングセンター(滋賀県)・札幌競馬場(北海道)・小倉競馬場(福岡県)の4ヶ所。試験内容は以下のとおりです。
1次試験の内容
・身体検査…身長・体重の計測など
※応募資格で決められた体重を超えてしまっていると、その時点で不合格となるので要注意!
・体力測定…片足つま先立ち・けんすい・しゃがみこみ・サイドステップ・立ち幅跳びの5項目
・学科試験…国語・社会の筆記試験(中学校レベル)
※JRAでは過去の試験問題を有料で販売していますので、心配な方は購入して解いてみるとよいでしょう。
(騎手過程の問題は過去5年間分(5点)が販売されており、1点40円+送料で購入可能)
・面接…7~8名の集団面接
また、中学・高校のスポーツ活動で優れた成績をあげた場合は「スポーツ特別入試制度」があり、1次試験の一部受験科目が免除になります。
2次試験を受ける
2次試験は10月上旬頃、1次試験の合格者のみ受けることができます。試験会場は競馬学校(千葉県)。3泊4日程度の合宿形式で行われ、内容は以下のようになっています。
2次試験の内容
・身体検査…身長・体重の計測など
※ここでも決められた体重を超えると、その時点で不合格になります!
・運動機能検査…1次試験とは異なる内容のテスト(シャトルラン・跳び箱・縄登りなど、毎年異なる)
・面接…本人面接・保護者面接
・騎乗適性検査・厩舎作業審査…実際に馬にまたがったり厩舎作業をしたりする審査
※乗馬未経験者は乗馬経験者とは違う視点で適性を見られます。
2次試験の合格発表は10月下旬、JRAのホームページ上で行われます。
最終的な合格率は5~10%程度。非常に狭き門なので、受験前にしっかり体力づくりなどの準備をしておきましょう。
競馬学校に入学
1次試験、2次試験を突破したら、競馬学校へ入学することができます。JRAの騎手になるという夢を叶えるためのスタートです。
入学式は4月ですが、3月に入学前研修があります。入学前研修では、競馬学校での1日の流れやルールを学びます。
競馬学校の3年間で学ぶこと
競馬学校では3年間、学校内の寮で生活しながら騎手になるためのトレーニングを受けます。
最初の約1年半は「基礎課程」となり、以下のような内容を学びます。
競馬学校の基礎課程
・基礎訓練…乗馬に必要な基本的な技術や、馬の取り扱い方を学びます。
・走路騎乗…走路にて指示されたタイム通りに馬を走らせ、速度感覚を身につけます。
・フィジカルトレーニング…走る馬の上で自分の身体をコントロールできるよう、筋肉や体力、体幹を鍛えます。
・メンタルトレーニング…プレッシャーのかかるシーンでも集中できるよう、自分の心の状態を知る訓練です。
・馬学・競馬法規…馬の体の構造や競馬開催のルールについて学びます。
残りの1年半は前期と後期に別れた「実践過程」となり、前期(1年)はトレーニングセンター(美浦または栗東)の厩舎で実習を受けます。ここでは調教師の指導のもと、競走馬の調教方法や実践的な騎乗技術を学びます。
後期(約半年)は競馬学校に戻り、いよいよレースで騎乗するための訓練。生徒同士で模擬レースを行い、実際のレースで求められる騎乗テクニックや戦略スキルを磨きます。
競馬学校の1日
5:00 起床
朝は検量からスタート!指定体重を超えないよう、自己管理が大切です。
5:30 厩舎作業
各自2頭の馬の管理。馬房の清掃や馬の健康チェック、飼い付け作業(餌を与えること)を行います。
7:00 朝食
全員で朝ごはん。管理栄養士が栄養バランスと体重管理を考えた食事を提供します。
7:30 実技
基礎からレース騎乗までの実技を学びます。教官は4名体制でさまざまな角度から指導してくれます。
12:00 昼食
13:15 学科
馬の専門科目やアスリートとして必要な科目のほか、世間一般の教養科目も学びます。
15:15 厩舎作業
各自が担当している馬の手入れや飼い付け作業を行います。
17:00 夕食・自由時間
夕食から就寝までの5時間が自由時間。各自に必要なトレーニングを行う時間も含まれています。
20:00 馬の健康チェック
交代で馬の状態を見回り、確認します。
22:00 就寝
1日が終了。明日へ備えてしっかり休息をとります。
※夏季(7月中旬から9月上旬)は4:00起床、21:00就寝となります。
JRA騎手免許試験を受験する
競馬学校での学びを経て、いよいよ騎手免許試験へ挑みます。
試験の内容と合格基準は以下のようになっています。
JRA騎手免許試験の内容(競馬学校騎手課程の生徒の場合)
・学力・技術に関する口頭試験…競馬関係法規・競走騎乗に関する専門的知識・一常識に関する試験
・身体検査…視力・体重測定など
・人物考査…面接。騎手という職業につくにあたっての考え方などを問われる
JRA騎手免許試験の合格基準(競馬学校騎手課程の生徒の場合)
・学力及び技術に関する口頭試験の成績が100点満点中60点以上
・体重…49㎏以下
・視力…両眼で0.8以上かつ左右ともに0.5以上
※矯正器具を用いる場合はソフトコンタクトレンズのみ可
・身体検査…騎手としての業務を遂行するに当たり特に支障をきたすような障害がないこと
・人物考査…騎手として業務を遂行するにあたって、人格や識見、精神機能的に問題がないこと
競馬学校で日々学んだことをいかに自分のものにできるかが問われる騎手免許試験。合格率はほぼ100%と言われていますが、競馬学校の卒業はハードルが高く、実力がないと卒業できない(=騎手免許試験を受けられない)ため、簡単な道のりではありません。
競馬学校を卒業
学校生活最後のイベントとなる卒業式・卒業記念模擬レースは2月に行われます。
「JRAの騎手になる」という夢を持って入学したものの、体重制限や視力の低下、あるいは成績等を理由に退学せざるをえないケースもあります。
競馬学校でのハードな毎日を乗り越え、卒業すること。それは騎手という夢を叶えるだけではなく、自分の心と体を知り、かけがえのない仲間に出会い、豊かな経験を得る貴重な機会になるでしょう。
厩舎に所属
騎手免許試験に合格すると、騎手としての人生がスタートします。
最初は美浦(茨城県)か栗東(滋賀県)いずれかのトレーニングセンターへ配属されます。
トレーニングセンターにはそれぞれ100名(合計200名)の調教師が自分の厩舎を持っていて、競走馬はそのどこかに所属しています。新人騎手もまたいずれかの厩舎に所属することになっており、センター内には騎手のための独身寮や舎宅が用意されています。
騎手=レースでの騎乗というイメージが強いかもしれませんが、レースがない日は競走馬の調教や厩舎作業などさまざまな仕事があります。馬に乗るのは騎手ですが、その馬をレースで最良のコンディションにするために携わる調教師や厩舎スタッフとの打ち合わせも欠かせません。
また、マスコミや競馬専門誌の記者が取材にくるため、レースで自分が乗る馬や担当馬などについて取材に応じることもあります。
JRA騎手デビュー
JRAの競馬は、基本的に土曜日と日曜日に開催されます。騎手は前日の21時までに各競馬場と美浦・栗東のトレーニングセンターに併設されている「調整ルーム」と呼ばれる施設に入ることになっています。
「調整ルーム」に入る目的は、アスリートとしてのコンディションを整え、外部との接触を避けるため。入室後は携帯電話等の通信機器の使用はNGで、インターネットも使えません。
レース当日も、競走馬の調教や厩舎作業をしてから競馬場へ向かいます。
検量や準備を経て、レースの20分前になると騎乗の合図がかかります。騎手控え室前に整列し、お客様に一礼してから騎乗。パドックを出て馬場へ向かい、騎乗馬の走りを確認したら、ゲートイン。JRAの騎手デビューです!
※記載している情報は2023年9月調査時点のものです。
※参照:
JRA日本中央競馬会競馬学校 https://www.jra.go.jp/school/jockey/become/
日本中央競馬会会報「令和5年度調教師及び騎手免許試験要領」 https://jra.jp/news/202208/pdf/080301.pdf
NARの騎手になるには
筆記試験・運動機能検査を受ける
地方競馬教養センターの入学試験は年間に1度だけ、1泊2日の合宿形式で実施されます。
地方競馬教養センターの受験資格
・学歴…入学時に中学校卒業以上の学歴を持っていること
・年齢…20歳以下
・体重…年齢により上限あり(最高体重が45.0~47.0kg以下)
・視力…左右いずれか一眼が0.5以下でないこと
※矯正器具を用いる場合はソフトコンタクトレンズのみ可
・識別力・張力・健康状態…騎手として支障がないこと
試験内容は筆記試験と運動機能検査の2つ。詳細は以下のようになっています。
地方競馬教養センターの入学試験の内容
・身体検査…体重、視力、聴力など
・運動機能検査…閉眼片足立ち・サイドステップ・シャトルラン・ジャンプステップテスト・垂直跳び・上体起こし・懸垂・持久走(1500m)・握力・背筋力・上体そらし・長座体前屈の12項目の検査が実施されます。
・面接…騎手としての適性があるかどうかを判断されます。
合否判定とは別に、一般教養(国語・数学・社会)についての学力測定が行われます。乗馬経験に関しては有無を問われないため、これまで騎乗したことがなくても問題ありません。
地方競馬教養センターに入学
入学試験に合格できれば、地方競馬教養センターに入学となります。地方競馬教養センターの騎手課程は2年間で全寮制です。
2年間の養成期間で学ぶこと
地方競馬教養センターでは騎乗技術だけでなく、競馬に関する法規や知識、一般教養なども学んでいきます。2年間の養成期間は、以下のように4学期に区切られて教育が進められていきます。
4学期の期間と教育内容
・1年目/1学期(6ヶ月間)…馬術の基本を学びます。
・1年目/2学期(6ヶ月間)…騎手の乗り方である「モンキー乗り」やゲートからの発走などの競走訓練を学びます。
・2年目/3学期(4ヶ月間)…2年目となり、より実戦に向けた本格的な競走訓練が始まります。3学期は4ヶ月間と短いですが、集団での騎乗や模擬レースなどの総合競走が主な内容です。
・2年目/4学期(8ヶ月間)…各競馬場の調教師のもとで実習を受け、騎手免許試験に向けた総合訓練を行っていきます。また、他にも課外授業(競馬場、競走馬育成施設等)、レクリエーション(旅行、キャンプ、演芸会等)も実施されます。
地方競馬騎手免許試験を受験する
騎手免許を取得するためには、騎手免許試験に合格しなければなりません。この試験は農林水産大臣が競馬法に基づいて認可している国家試験で、「身体」「学力」「人物」「技術」の4つの要素で構成されています。1次試験と2次試験があり、それぞれ以下のような試験が実施されます。
地方競馬騎手免許試験の内容
<1次試験>
・身体…提出された身体検査書による審査
・学力…筆記試験
・人物…調査資料等にもとづく「欠格事項」に該当する者であるか否かについての審査
※欠格事項とは、精神的・社会的に騎手としての業務を適正に行えない状態である・騎手免許を取り消された、もしくは悪用した履歴がある・馬主や運営委員といった関係者である、といった点になります。
・技術…競馬関係法規および一般常識や馬の飼養及び騎乗に必要な技術についての筆記試験
<2次試験>
・身体…視力・運動機能の検査・体重測定
・人物…面接試験
・技術…課題に従った基本騎乗・競争乗馬
1次試験に合格すると2次試験へと進み、面接、実技試験が行われます。
ちなみに、地方競馬教養センターでは4学期に実技試験が実施されるので、センターからの受験者は実技試験が免除となります。
騎手免許の合格基準は以下のようになっており、基準に満たなければ取得することはできません。
地方競馬騎手免許試験の合格基準
・体重…50.0㎏未満
・視力…左右いずれか一眼が0.6以上
※矯正器具を用いる場合はソフトコンタクトレンズのみ可
・聴力・運動機能及び健康状態…業務を行うのに著しい障害がない
・学力…筆記試験の成績が100点満点中60点以上
・人物…「欠格事項」に該当せず、面接試験の成績が100点満点中60点以上
・技術…1次試験の筆記試験が100点満点中60点以上、2次試験の基本騎乗及び競走騎乗の実技試験の成績がそれぞれ100点満点中60点以上
競馬学校を卒業
地方競馬教養センターでの全カリキュラムを修了し、騎手免許試験に合格できたら無事卒業となります。
厩舎に所属
騎手免許試験に合格し、競馬学校を卒業した後は各地方の厩舎に所属する形となります。厩舎とは調教師が管理する施設、組織の総称のことで、その調教師をリーダーとした競走馬の管理チームの意味合いもあります。
地方競馬の厩舎は全国に複数箇所ありますが、どの厩舎に所属するかは本人の自由。地方競馬の騎手はどこかの厩舎に所属しなければレースで騎乗することができないため、各地の厩舎へ就職する形となります。
厩舎には何名ものスタッフが所属しており、チームとなって管理馬を調教しています。主なスタッフとしては厩務員(馬の全面的な世話をする人)・調教助手(調教において管理馬に騎乗する)がおり、それぞれ専門的な分野の仕事をこなしながら厩舎を支えています。
騎手免許を取得したからといって、すぐにデビューできるわけではありません。厩舎で他のスタッフのお手伝いをしたり、調教師から色々なことを学んだりして、多くの経験を積んで研鑽しつつNARデビューを目指していきます。
NAR騎手デビュー
デビュー後はレースで良い成績を納め、騎手としての名声を高められるよう励んでいきます。
ですが、無事に騎手としてデビューを果たしても、ずっと安泰というわけではありません。レースの前には体重検査が必ず実施され、基準体重を超過すると出場停止や過怠金などの措置がとられます。
騎手にとって体重管理は必須であり、馬に大きな負荷を与えないよう徹底していかなければなりません。そのため、日々の食事制限や減量によって体重をコントロールする必要があり、徹底した自己管理能力が求められます。
また、騎手が競走馬に騎乗するには、調教師から依頼をもらわなければなりません。そのためには、レースで良い成績を納めて調教師からの信頼を得なければならないのです。
もし思うような結果を出せなければ、調教師からの信頼は得られずレースに出場することすらできなくなります。そのため、常に向上心や情熱を持ち、高い意識で臨み続けられることも、一流の騎手の条件といえるでしょう。
※記載している情報は2023年9月調査時点のものです。
※参照:
NAR地方競馬全国協会「騎手になるには」 https://www.keiba.go.jp/association/training/practice.html
NAR地方競馬全国協会「調教師・騎手免許試験関係公示 令和5年度第2回調教師・騎手免許試験」 https://www.keiba.go.jp/pdf/uploads/20230714_01.pdf>