馬の学校アニマル・ベジテイション・カレッジは 馬のプロを目指している皆さんの夢を叶えるための学校です。

馬の生理基準値と健康管理・病気予防

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防=

病気の予防を念頭に、毎日の馬の手入れ時に健康状態を把握のために馬取扱者が知っておかなければならない事として、馬体の必要な生理的な数的基準値・体調や異常をチェックする事項・内容を把握していることです。そのことによって、馬の疾患・病気を早期に見出すことが可能になります。このコーナーでは更に馬の飼養管理を身に着け、何気ない仕草で馬の世話の出来る馬取扱者や馬管理者になろうではありませんか!!

AVC(アニマルベジテイションカレッジ)での馬の手入れの一コマ:馬と接する時にいつもと変わらない健康状態かをチェックしながら世話をすることが大切です。
第1話.=日常ウマの健康管理の基本的事項=
1)日常の健康管理の必須項目として知っておくこと

(1)体温:
成馬の場合は、平熱;37.5~38.0℃(微熱は38.9℃、中熱は40℃、高熱は40℃以上を言う)。幼駒ではやや高めであることを知っておくこと。
*体温の状況を朝(やや低め)と夕方(やや高め)の2回計測し、体温表に記載して管理馬の健康管理を行うこと。日常と極端に違っていた場合は直ちに関係者に相談し、時には獣医さんに連絡することが大切です。
*体温計は直腸に挿入後、一端に保定器または紐をつけて尾根部に固定すると安全です。

(2)正常脈拍数:
幼駒;80~120回/1分。当才;60~80回/1分。1歳;40~60回/1分。
成馬;28~40回/1分。
*脈拍は静止している時に計測すること。
*馬体左側の肘頭のやや後ろの位置で、聴診器あるいは厚紙のメガホンを使い、 時には直接耳を当てて心臓の音を聞く、とともに拍動数を30秒~1分間計測することによって計測が可能となります。
*心音は相次ぐ2種の音を発しますが、心臓の収縮期(血液を全身に送り出す時に起こる音)に房室弁(心室収縮期に心室内の血液が心房内への逆流を防ぐ弁)の緊張と心室の筋肉収縮による音を第1音または収縮音と言い、心鼓動と同時に聞こえます。第1音に続き心臓の拡張期に半月状弁(大動脈と肺動脈の出いれ口にあり、心室弛緩期に動脈内の血液が心室内への逆流を防ぐ弁)の緊張による音を第2音または拡張音と言います。
*第1音はやや濁って深く、第2音は清亮で短い。即ち、Buh-duppと聞こえ、第1音と第2音の間隔は短く、第2音と次の第1音との間隔は長い。

左図:心臓の外形と名称。
右図:心臓の内部は左右4室(2心房と2心室)からなり、血液の流れ(←方向に出し入れ)がスムーズにしかも逆流しないように弁膜(半月弁と房室弁)を備えている。心音は心臓の動きに合わせて働いている弁膜や心筋の音を聞き健常か病的化を聞き分けるのです。ちなみに、右心室の房室弁を三尖弁と言い。左心室の房室弁を二尖弁あるいは僧帽弁と言います。

心音の最も良く聞くことのできる聴診部位は?
*第1音
僧帽弁(左心室の弁);左側の第5~6の肋骨間で肩端線からの水平線よりやや下方部位で聞く。
三尖弁(右心室の弁);右側の第4肋骨部で胸の下1/3の下半の部位で聞く。
*第2音
大動脈弁(半月弁);左側の第4~5肋骨間部で肩端水平線下1/2指幅の部位で聞く。
肺動脈弁(半月弁);左側の第4肋骨部の下1/3の下半分の部位で聞く。

心音の異常音を聞いた場合は?
*病的第1音強盛の場合は;急性心臓衰弱、急性熱性病、慢性貧血を疑う。但し第2音は微弱となる。
*病的第2音強盛の場合は;二尖弁の弁膜病による肺動脈の血圧亢進(肺動脈第2音)、腎萎縮(大動脈第2音)を疑う
*病的心音の減弱の場合は;心臓衰弱を招く病気(急性熱性病、強度の貧血、全身衰弱、炭酸中毒)、心膜・肺・胸膜の疾患(肺気腫、胸膜炎、水胸、創傷性心膜炎)を疑う。
*心音の混濁または不純の場合は;軽度の弁膜閉鎖不全、弁膜の肥厚、心臓衰弱を疑う。
*心音の分裂及び重複の場合は;左右心室の収縮弛緩が不等に起こる病的状態、心房収縮による心筋音の聴収、房室弁孔狭窄(第2音の分裂・重複)、肺動脈の血圧亢進(肺循環のうっ血)を疑う。

左図:馬体の左側で良く聞こえる心音の部位。特に左心室の二尖弁、半月弁の大動脈弁や肺動脈弁の心音。
右図:馬体の右側で良く聞こえる心音の部位。特に右心室の三尖弁の心音。

(3)正常呼吸数:
静止時の成馬の呼吸数は8~16回/1分です。
*鼻孔の動き(時には肋骨・胸部の動き)で計測することが良いでしょう。
*感染病などの時は呼吸数が増えることになります。

(4)可視粘膜:
可視粘膜とは結膜、鼻粘膜、陰唇、膣粘膜、口粘膜などを言いますが、この部の色調、分泌物、腫脹、傷、出血などを観察することです。
*多くは結膜の色調で判断しますがね。
*疝痛や感染症などで熱があったり、あるいは貧血・失血していたり、外傷などで傷を負っているような時には可視粘膜の状態が重要になります。

(5)採食の仕方と歯:
*飼い葉桶から食べている時の状態で、コボスか片側だけの歯で食べるかなどの仕草に注目することです。
*多くは歯や口腔内に問題をかかえている時に採食の異常行動がみられます。

(6)皮膚と被毛:
*毛の生え替わる季節には注意が必要だが、日常の毛の長さや光沢に注目することです。
*毛替わり時期(換毛・かんもう)になっても被毛がモサモサしていた場合は、栄養失調や寄生虫の濃厚寄生、高齢馬では脳下垂体腫瘍によるホルモン異常などを疑います。

(7)尿色と尿量:
*通常の量は3~8.5㍑/1日。
*健康馬はやや白濁した尿を出しますが、特に注意すべき色は血尿、黄色、
濃色です。このような時は泌尿器病や筋肉病あるいは内臓疾患を疑いまし
ょう。

(8)糞便:
*通常の量は15~25kg/1日。
*馬房などの掃除や寝藁あげの時には特に便の状態に注意が必要です。
*糞便内に寄生虫や出血、膿などを見た時、あるいは軟便・硬便や下痢便など
の観察が重要です。

(9)腸蠕動:
*腸蠕動(ちょうぜんどう)とは腸の動きのことを言い、蠕動により腸内容が
(液状や気状)が移動する音を腸蠕動音と言いますが、馬に多い大腸
の疝痛は左側の腸に起こることが多いので,馬体の左側の腹に耳を当てて腸
音の質(ゴロゴロ、ビシャ、キーンなどの音)や腸音の欠損の有無を良く
聞くことです。
*ちなみに、小腸では流水音、拍水音など、大腸では鳩鳴音、蜂鳴音、雷鳴音などの区別があります。病的な音としては、短時間内に急に起こる強盛な蠕動は蠕動亢進で腸カタルを、腸痙攣は腸壁にある横層筋の強烈な収縮が数秒~数分間持続して腸が紐状に硬くなる(痙攣疝)、前方に進む蠕動で腸狭窄や浣腸液使用後に起こる逆蠕動、更に便秘や腸変位、気腸、腸麻痺、腹膜炎で蠕動減退などが診断されます。

(10)運動器疾患多発部位の触診:
*多くは腕節や飛節以下の下脚部(かきゃくぶ)に多発する傾向にあるので、運動前後には必ず触診し、熱や痛み、腫れなどをチェックすることです。これらの症状がある場合は、なるべき早く関係者に連絡・相談をすることです。
*異常歩様にも注意すること。

(11)蹄の温度と蹄輪や蹄底の観察:
*蹄は冷たいのが正常であることから蹄外壁(蹄甲・ていこう)の熱感を、蹄輪は病気や栄養に敏感に反応するので蹄輪の凹凸や蹄冠部との平行あるいは間隔などのチェック、蹄底は手入れ時に血マメや悪臭等に注意が必要です。“蹄なくして馬なし”と言われるくらい大切な器官なのですから。

左側:早朝の明神池(上高地)。
右側:朝日を浴びる焼岳(上高地)。
2)呼吸運動と病気との関連

① 呼吸数は運動、外気の高温、精神的興奮、食後、妊娠などで増加します。
② 静止時に検査すること。
③ 呼吸にはタイプがありますので、そのタイプをしっかり頭に置きながら病気を疑うか健康状態かを判断することです。

(1)呼吸形式;
① 胸腹式;健康時の呼吸方法ですが、胸と腹を使って呼吸をするタイプです。
② 胸式;疝痛などの腹部に痛みや異常のある時の呼吸法です。
*横隔膜の運動を伴わない呼吸法で、横隔膜や腹膜が痛い時です。
*腹水や胃拡張などで腹圧が増した時の呼吸法です。
③ 腹式;
*胸式の逆で主に横隔膜の運動による呼吸法で、急性胸膜炎、胸痛、創傷性心膜炎などで胸腔内の臓器が痛い時の呼吸法です。

(2)1分間の健康時の呼吸数;
成馬:8-16回。ウシ:10-30。ヤギ・ヒツジ:12-20。ブタ:8-18。イヌ:10-30。ネコ:20-30回。

3)馬の体温と発熱

① 通常の体温は、肛門から直腸で測りますが、朝に低く、夕刻に高い⇔このことを日差(にっさ)と言います。
② 熱は微熱(38.0~39.0°)、中熱(39.0~40.0°)、高熱(40.0~41.0°)、最高熱(41.0°以上)に区分され、疾患により熱に体温差があります。
③ 正常時の体温は、成馬で37.5~38.0°、幼駒で37.5~38.5°です。
④ 因みに、ウシ:37.5~39.5°、イヌ:37.5~38.0°、ネコ:38.0~39.5°、ブタ:38.0~40.0°です。

(1)動物の体温temperatureとは?
定温動物と変温動物に区分されます。
① 定温動物homiotherm;恒温動物←現在使用される言葉)
*体温調節能力がある。
*ほぼ一定の体温を維持できる。
*脊椎動物のなかでは哺乳類と鳥類だけである。
*体温調節は←体温中枢で行う。
外気温が高い場合は→発汗、呼吸などで放熱する。
低い場合は→血管を収縮、筋肉活動を高めるなどを行う。

② 変温動物poikilotherm;冷血動物
*全ての無脊椎動物。
*動物の進化のなかで、魚類→両生類→爬虫類→哺乳類へと進化した。
*しかし進化の過程で環境の温度とともに体温を変化させる動物を変温動物と言います。
*多くは物質代謝による発熱量が少ない動物です。
*熱を保持するような機構を体に備えていないために→熱を体外に出してしまうからです。

(2)馬の発熱の型・タイプで病気を推察することができます:

熱型模写図:各種熱タイプは病気の早期診断の助けになります。そのためには毎日朝夕2回体温を計測し、必ず体温表にプロットしておきましょう。

① 稽留熱(けいりゅうねつ):
*日差が1℃以内で高熱(40℃~41℃)が持続した場合。
*胸疫、インフルエンザ、クルップス性肺炎を疑います。

② 弛脹熱(ちちょうねつ):
*日差が1℃以上で、しかも平温(37.5~38℃)に下がらない熱を言います。
*伝染病や敗血症を疑います。

③ 間歇熱(かんけつねつ):
*間歇的に熱発作があり、最低体温は平温もしくはそれ以下で、最高体温が極端に高く無熱期と有熱期とが互いに交代する熱です。
*ウマの媾疫(馬梅毒と言われ交尾伝播)、日本には無いが海外にあり発症馬は50%以上斃死します。いずれは日本にも入ってくる可能性があります。

④ 回帰熱(かいきねつ):
*熱発作がたびたび反復し持続する熱をいいます。
*典型的なウマの伝染性貧血(法定伝染病)にみる熱型です。

⑤ 潜伏熱(せんぷくねつ):
*熱の兆候があるものの体温の上昇を欠く熱型です。
*急に発する熱は各種急性感染病や急性伝染病を疑います。

⑥ 虚脱熱(きょだつねつ):
*体温が平熱以下に下降した熱のことを言います。
*連続性の下痢、高度な栄養失調、衰弱、中毒などを疑います。

4)脈拍:

図:脈拍の主な観察部位;心臓、頸動脈、顔面動脈、指動脈です。

① 脈数は年令、性、種類によっても異なりますが、行動、消化、妊娠、興奮、高気温などで増加します。
② ウマ(1分間の平均値):
種牡馬;28~40回、雄馬;28~36、雌・騙馬;36~40。
1歳;40~56、生後~12ヵ月齢;48~72、生後~6ヵ月齢;64~76、
生後~14日齢;80~90、生後1~2日齢;100~120。
③ ウシ:種牡牛;36~80、雄牛;60~80、雌牛;36~60、12ヵ月齢;80~110、60日齢;110~134。
④ 成豚:60~80。
⑤ 成犬:種雄犬;70~120、大型犬;66~80、小型犬;80~120。
⑥ 成猫:110~130。成兎:120~140。
⑦ 鳥類:150~200。
⑧ *顔面動脈の通り道である下顎(血管切痕と言う頭絡のアゴ革の当たる少し前部で咬筋との境にある切痕・せっこんという部位)に指を当て計測することも可能です。
⑨ *繋の内外側を走っている指動脈で蹄などに異常があるときには有効な指標となります。また、異常拍動は頸動脈でも診断の有用な手助けにもなります。

動物の心臓の重量、心拍数、血圧:馬はサラブレッドであるが安静時における心拍数と運動時の差が極端に大きいことから、心臓機能の優れていることを示していることになります。なお、心臓の重さg/㎏は体重比に対するグラム数を表しています。
5)呼吸運動と病気

① 呼吸促迫(こきゅうそくはく):呼吸数が多くハーハーと呼吸の仕方が速い場合を言います。
*熱性病、炭酸中毒;肺炎、血行障害などによる場合が多い。
*肺の弾力性減少;肺炎、肺水腫、肺出血、胸膜炎、肺気腫、破傷風などによります。
*呼吸時の痛性疾患;急性胸膜炎、横隔膜炎、急性腹膜炎など(深い呼吸をしないので表層性呼吸ともいいます)。
*精神刺激;脳疾患、産後麻痺など。

② 呼吸遅徐(こきゅうちじょ):呼吸数が少なく、呼吸と呼吸の間隔が長く遅い場合を言います。
*知覚障害を伴う脳疾患;脳膜炎、脳腫瘍、狂犬病末期など。

③ 呼吸困難(こきゅうこんなん):呼吸を行うのに苦しそうな症状を示します。
*吸気性呼吸困難;肺胞内に空気の吸入が困難なために吸気が長く、身体のいろんな筋を使います。吸気の際にウマでは鼻孔を開き肋骨を挙げます。
病気は、喉頭麻痺、声門浮腫、喉頭腫瘍、喉嚢腫脹などを疑います。
*呼気性呼吸困難;肺胞内空気の排除が困難なため呼気長く、わき腹を使い、肛門呼吸などをします。ウマの慢性肺気腫(息癆;そくろう)を疑います。

6)結膜の色と病気:

健康な結膜は淡いバラ色ですが、馬は多少黄色味を帯びています、牛は色が淡いです。
① 蒼白色:
*各種貧血や大動脈破裂などで起こる乏血を疑います。馬はむしろ汚白色か帯黄白色となります。

② 赤色:
*散曼性充血(呼吸困難、敗血症、熱性伝染病、腸炎、疝痛など)を疑います。
*樹枝状充血(脳の血行障害、頭部静脈の血行障害など)を疑います。
*小赤斑(血斑病、敗血症、伝染性貧血など)を疑います。
*チアノーゼ(紫藍症とも言いますが;心臓弁膜病、肺のガス交換障害など)を疑います。

③ 黄色:
*黄疸の徴候で、十二指腸カタル、肝臓病、燐中毒、悪性貧血、熱性伝染病などを疑います。

左図:眼結膜の検査風景;人差し指は上眼瞼を抑えぎみに眼窩に入れ眼球に指圧を加え、同時に親指で下瞼を開くと瞬膜と共に結膜の状態が観察できます。
右図:口腔内の検査風景;歯槽間縁に親指を入れ上顎(硬口蓋)を押し上げて、馬の口を開かせた状態で、手を挿入して片手で臼歯の検査、あるいは舌を対側の咬合面に押し当てて反対側の臼歯の触診を行います。また、上唇と下唇を両手で開き切歯の不整咬合などを検査します。更に第3切歯上部の粘膜に指圧を加え抹消循環の低下状態を把握します(正常な粘膜は薄ピンク色です)。
7)口腔の異常

① 採食異常:下顎や唇の運動障害、神経麻痺(三叉神経、顔面神経)などで起こります。
牙関緊急(ががんきんきゅう)と呼ぶタームがあり、破傷風や急性脳膜炎のときに起こる咬筋の痙攣を言います(馬の大きな長い下顎をガクガクさせる)が、異常な口の上げ下げで歯をガタガタと音をさせます。

② 飲水異常:舌や唇の運動障害、下顎の疾患、顔面神経麻痺などで水飲みが上手くいかない場合に起こります。

③ 咀嚼(そしゃく)障害:歯、頬、舌、口腔粘膜、顎骨、咀嚼筋、食道の痛み。口腔内の腫脹、咀嚼筋の麻痺などで食べたものをこぼすことが多いです。

④ 唾液の分泌異常:
分泌亢進(流涎・りゅうえん;よだれを流すこと);
口内炎、馬のムラサキツメグサ中毒、嚥下困難、喉頭炎、腺疫、狂犬病、食道麻痺、食道閉塞、下顎の痙攣などを疑います。

⑤ 分泌減退;熱性病や疝痛、アトロピン中毒などを疑います(分泌亢進の反対)。

⑥ 口臭の異常:口内炎、咀嚼・嚥下困難、食欲廃絶、虫歯、歯肉炎、口腔粘膜潰瘍、口腔の腫瘍などを疑います⇔悪臭を嗅ぐことが多いです。

⑦ 舌の異常:舌根部の放線菌症、口具や歯牙による裂痕などに多くみられますが、舌苔(ぜったい)もしばしばみられます👈舌の背面に苔・こけが生えているような状態で、その部位は粘膜が厚くなっています⇔口内炎、胃疾患、食欲欠損などで良くみられます。

⑧ 歯牙の異常:乳歯から永久歯への歯牙の交換(脱換・ダッカン)、過剰歯(馬の狼歯・ロウシ/ヤセバ)、歯槽炎(シソウエン)などによる歯牙の可動性、不正摩滅、虫歯などによって⇔食べ物をボロボロとこぼすことが多く見受けられます。

8)排尿と関連する主な疾患

① 排尿困難:腹筋を収縮し長時間にわたる排尿姿勢をとる。
膀胱、尿道、包皮、急性腹膜炎などの痛性排尿では不安や悲鳴を発することがあります。

② 頻尿や多尿:慢性腎炎、腎萎縮、急性腎充血、急性膀胱炎、尿道炎、前立腺炎、膣炎、発情期の牝馬、脊髄炎などの時は頻繁に排尿姿勢をとります。

③ 排尿回数:健康な馬や牛で5-7回/1日、犬で2-3回/1日。乳牛では飲水が多量のために多回数。牡犬はマーキングのために屋外で少量をしばしば排尿します。

④ 尿失禁:腰部打撲、脊髄疾患、馬尾炎などで膀胱括約筋の収縮力減退によって、尿漏れ(時に尿の垂れ流し)を起こします。

⑤ 尿量の増加:腎充血、萎縮腎、中毒、クルップ性肺炎(一時性多尿)などで起こります。

⑥ 尿量の減少:心弁膜病、糸球体腎炎、下痢、嘔吐、発汗、水分不足などで起こります。

⑦ 病的尿色:尿の色で、濃色(減尿、熱性病)、黄色(黄疸)、赤色(血尿、血色素尿、麻痺性筋色素血症)などで疾病を推察することが可能です。

⑧ 溷濁(こんだく):馬の尿は炭酸石灰結晶が多いため健康でも溷濁しています。しかし、他の動物では長時間の尿の放置で溷濁します。但し肉食獣の尿は溷濁し易い。

⑨ 家畜の1日の全尿量(ℓ):
馬;3~8.5(最大10ℓ)、牛;6~12(最大25ℓ)、山羊・羊;0.5~1(最大2ℓ)、豚;2~4(最大6ℓ)、大型犬;0.5~1(最大2ℓ)、小型犬;0.04~0.2ℓ、猫;0.1~0.2ℓ。

9)排糞と疾患

健常時の糞便量と回数:
*日量平均糞量は、食べ物の質や量、飲水、そして動物種によって異なります。
*糞便:日量平均糞量(㎏)。
馬;15~25、牛;15~35~50、山羊・羊;1-3、豚;0.5~1.5、犬;0.1~0.4。
*排便の回数:概して水分に富む飼料、運動で増す傾向にありますが、健常では;馬;2~5時間毎、牛;1.5~2時間毎、犬;毎日1回。

① 排糞困難:
*裏急後重(りきゅうこうじゅう);直腸粘膜の炎症、肛門括約筋の痛性痙攣、便秘などにみる行為です⇔便意が頻発して強度の怒責・シブリを言います。
*糞便失禁(ふんべんしっきん);自分の意思にかかわらず体動のたびに行われる不自然な排糞のことで、肛門括約筋の麻痺により肛門が哆開(しかい)し不随的な排糞を言います⇒腰髄の疾患、馬尾炎、高度の下痢などにみます。

② 便秘:
食滞、腸の変位、直腸痙攣、熱性疾患、破傷風、腸カタルなどを疑います。

③ 下痢:
軟泥状、水様などがあります。腸蠕動亢進(腐敗物、醗酵物による刺激)、病原微生物、腸潰瘍、毒物、下剤服用後などを疑います。

④ 糞便の異常:
糞便の硬度や形状をよく観察することです:
*水様;病的で腸カタルの徴候。
*軟便;ウシ以外は病的。但し、競走馬の場合は装鞍所やパドックでレース前の興奮で軟便あるいは水様便をしばしば排出します。
*硬便;便秘、熱性病、腸カタルの初期、腸の狭窄などでみます。

⑤ 糞の色:
*暗色;直腸に長時間停滞した糞。
*黒色;陳旧な胃腸出血(胃潰瘍、鉤虫の寄生など)。
*類白色あるいは黄色;脂肪便(胆汁分泌不全による脂肪不消化、幼駒の白痢などにみます)
*黄緑色;黄疸便。

⑥ 異常混合物:
*血液;犬、牛の糞に多い。淡チョコレート色や血性被膜(少量の出血)。
*不潔タール様;陳急の出血、腸上部・小腸の出血、時にX大腸炎の馬にみます。
*血便;直腸穿孔、炭疽、豚コレラ、ジステンパー、中毒、腸変位、寄生虫などにみます。
*粘液;通常の馬糞の表面は薄い粘液層の被膜で被う。病的は腸カタルを疑う。
*膿;直腸の化膿巣、内臓の膿瘍などを疑います。
*寄生虫;条虫、馬バエ幼虫、回虫、円虫などの虫体を観察するが、このような状態の時は相当数の寄生虫寄生が疑われるので、直ちに駆虫処置が必要です。

⑦ 臭気:
*腸カタルで強烈な臭気があります。通常の肉食獣の糞では特に強いです。

左図:朝の田貫湖と富士山。
右図:上高地に咲くイワセンドウソウの花。
11)運動器の異常

(1)運動強拘(うんどうきょうこう)⇔動作がギコチナク緩慢で、歩様が短縮した状態を言います。
① 四肢の強拘歩様(きょうこうほよう):破傷風、クル病、骨軟症を疑います。
② 両後肢の歩様強拘:脊髄疾患、麻痺性筋色素血症を疑います。
③ 一肢の強拘:筋肉疾患や関節リウマチを疑います。

(2)歩行不全(ほこうふぜん):不完全な歩行のことです。
① 骨部の疼痛(とうつう):骨軟症、クル病、骨膜炎、骨瘤などを疑います。
② 膝折姿勢(ひざおりしせい):腐蹄病、口蹄疫を疑います。
③ 跛行(はこう):関節・筋肉リウマチ、多発性関節炎、骨折、クル病、骨軟症にみられます。
④ 子馬病(しばびょう);子馬の細菌の感染病のことですが、化膿性関節炎が  みられます。
⑤ 間欠性跛行(かんけつせいはこう;跛行・ビッコを現したり無かったりする状態を言います):四肢の動脈栓塞症、大静脈の狭窄、脊髄炎、脳脊髄糸状虫症などで観察されます。

(3)関節の異常・奇形
① 関節腫脹(かんせつしゅちょう):骨軟骨症、クル病、骨軟症、化膿性関節炎、関節結核、関節症、関節リウマチ、子馬病、馬の伝染性流産菌症などで起こります。
② 四肢の湾曲(わんきょく):クル病、奇形。

(4)骨の腫脹を伴う場合;軟骨の限局性腫脹、巨頭病。クル病(クル病性念珠、二重関節)、骨端線炎、骨軟骨症、骨膜炎、骨瘤、腫瘍などでみられます。

(5)骨質の変化;ウマの骨軟症、クル病、骨多孔症・骨萎縮症、骨硬化症、骨軟骨症、繊維性骨炎(せんいせいこつえん)等で見られます。

(6)骨の連続性の異常;骨折が疑われます。但し骨の連続性の異常の中には微小骨折すなわちマイクロフラクチャーと言って局所の腫れ・熱感だけの場合がありますので、確定診断は獣医師によるX線検査が必要になります。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第2話.馬の主な病気について=健康馬と異常馬=
1)主な病気と診断に必要なこと

① 異常・病気を早期に知り、馬管理者と相談するためには、日常の各馬の行動・癖を知っておき、しかも馬体の主な部位の名称も知っておく必要があります。

函館山から駒ヶ岳を眺める。
2)健康馬の生理的数値

① 病気の有無を知るためには、健康な状態の時の馬の仕草(癖など)を知っておくこと。癖・くせを現わさない場合は健康状態に異変のあることが多くありますので、他の症状も併せて判断すること。
② 少なくとも管理馬の体温、脈拍、呼吸数ぐらいは知っておくことが必須条件ですね。病気や異常を伝える際には、熱があり何々炎・えんや何々症・しょうなどの疑われる病名をしばしば使いますが、その炎症(えんしょう)とは、炎の四徴(えんのしちょう)のことを言いますが、発赤(ほっせき⇔赤くなる)、熱感(ねっかん⇔ねつっぼい)、腫脹(しゅちょう⇔はれる)、疼痛(とうつう⇔痛がる)の4大特徴のことです。一方、炎症には急性や慢性があります。

3)炎症の徴候

① 【症】とは、変性性変化から発した炎症を言います。
例えば、関節症は関節軟骨の変化・変性が発端で起こった病気を言いますが、細菌感染などを凝った関節炎とは区別して使います。
② 急性の炎症;急性炎症;早い経過で局所や全身性の変化があらわれる場合を言います。体温の上昇、脈拍や呼吸数の増加、食欲不振、不快感、元気の沈滞、倦怠(けんたい)、下痢、便秘、尿の変化、血液の変化などが現われます。
③ 慢性の炎症;慢性炎症;経過の長い炎症で、被毛の光沢がなくなり、換毛の遅れ、栄養状態の悪化などによることが多いです。

4)異常馬の見分け方

① 異常馬を見出すことは、病気の治療や予防上最も大切なテクニックであることを肝に命じて馬の飼養管理をおこなって欲しいものですね。
② 各病気の定義、症状、原因、伝播などの知識をしっかり持っておくことがまず肝腎ですね。
③ 日常行う癖を見せない場合は、体調不良あるいは病気を疑います。

(1)病気の原因
① 馬体の一部あるいは全体に病的な変化を生じさせる作用が病気の原因となっていることが多いものです。
② 病的な変化は多様で、原因も複雑です。
③ 病気の原因には、外因と内因があり、互いに関連していることがしばしばあります。
④ 外因には、機械的原因(打撲)、温熱的(火傷・凍傷)、理学的(電気・放射線)、化学的(薬剤・有毒植物・蛇毒・昆虫毒)、生物学的原因(細菌やウイルスなどの微生物、原虫、カビ、内部寄生虫、外部寄生虫;カイセン・アブ・カ・ハエ)、栄養的原因(ミネラル物質、栄養過剰、栄養不足)、環境因子(空気、土地、水、騒音)、精神的因子(恐怖、興奮)など。
⑤ 内因には、体質や素因(持って生まれた個体差、種属差、年齢差、性差など)があり、同一の外因が作用しても同様な症状を他馬が示さないこともあります。また、遺伝的・先天的なもの、免疫やワクチン接種・順応性などの後天性のものもあります。

(2)病気の伝播
① 伝染病の伝播(でんぱ)が重要。
② 一見健康でありながら病原となるものを馬体に保有し、病原体を排泄している保有馬・患馬が重要視されなければならなりません⇔このような馬を疑似患畜;ぎじかんちくといいますが、伝染病の場合はこの疑似患畜を重要視しなければなりません。
③ 病原体の多くは糞や尿などに排泄されて伝播します⇒媒介と言って昆虫や鳥類、野生獣などの中間の媒介体(ばいかいたい)を通じて伝達されることが多いのですが、一方では人間も伝搬することが多いので要注意です。
④ 病原体を保有しながら症状を現さない馬(潜伏性保有者、疑似患畜)、回復したように見せかけの馬(回復性保有者)、また、接触性保有者などがあるので注意が必要です。更に、病原体を媒介(ばいかい)する者として、人間やネズミや鳥類などにより馬体に触れて感染させてしまう直接受動性媒介者、そして一度直接媒介者の体内で病原体を増殖させてから病原体を感染させる活動性媒介者などがいるので⇔馬飼育者は周囲の管理環境や病気の伝播状況などを十分に日頃から把握しておくことが肝要である。

病原の保有者・馬と媒介者と疾患との関連:

(3)病気の徴候・症状
① 先ずは、病気の発症部位を全身的と局所的な変化に分けて観察することです。
② 全身的な徴候は;
*動作、姿勢、歩様などの変化⇒耳や眼に現れてくる。
*飲食欲に変化⇒糞、歯、尿に現れてくる。
*体温の変化⇒脈拍や呼吸が速くなる。
③ 局所的・限局的な徴候;

体表の限局性病変と主な徴候病気・疾患:

図:ドサンコ牧場の放牧地と駒ヶ岳;ストレス解消のために放牧されノンビリ草を食んでいる馬もひとたび役割を果たす場合には、リラックスした状態で仕事をこなすことでしょう。


上図:健康な馬の基本的な外貌;特にサラブレッドを基本にした場合。
;しまりが良い。;量円ですんでいる。;鼻翼が広く鼻孔が大きい。;しまりが良く、口角は適度に深い。ノド;顎凹が広く、ノドに余裕がある。上腕;前方に良く張る。;長く傾斜し、筋肉は良く発達、肩関節と肩甲骨の角度は90度。;深く、アバラは良く張る。ヒバラ;短く、狭く、充実している。;適度な大きさを持ち、絞まっていて皮膚はうすい。;前肢の運動を妨げないように適度に離れている。前腕;筋肉は長く広く太く皮膚はうすい。前ひざ;広く、長く、厚く、正面を向く。;短く、広く、すじ離れがよい。球節;しまりが良く強大。つなぎ;皮膚が締まっていて、きれいで強く、蹄(ひづめ)と角度が一致している。ひづめ;中等度の大きさで左右ほぼ同じ、角質は緻密で、蹄叉、蹄球、蹄底、蹄冠が大きく、良く発達している。臀部;強大。;長く広く良く傾斜、筋肉は張り出して発達。後ひざ;幾分か外側に向く。すね;長く、幅が広く発達している。アキレスケンが太い。飛節;骨組が明らかで広く厚く、皮膚が締まっている。;適度な大きさ、皮膚が良く乾燥している。;長くてななめに低く見える。鬐甲(きこう);皮膚は適度に厚く、長く、頂点は明らかである。;真っ直ぐで短い。;広く短く厚い、腰接が良好である。;幅広く、長く、筋肉は充実しわずかに傾斜している。;尾根高く太く、尾力がある。
下図:馬が疲労した際の主な外貌;
全身;食欲の減退。体重の減少。物事に無関心。生アクビ。筋肉の局所的なふるえ。局所的な発汗。落ち着かない態度。心拍数や呼吸数の増加。;まばたきの増加または減少。寝むそうな目つき。クマができる。;しまりがない。下唇に力がない。乾燥した下唇。;頭を垂れた状態。皮膚;光沢がない。;尾力が減退。;腹が巻き上がる。腹がボテッとふくらむ。睾丸;腫れあがる。下肢;浮腫。肢をひきずった歩行。ぎこちない動作。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第3話.=馬の主な運動器の病気について=

どんな生き物でも必ず体調を損ねることがあり馬も然りである。その馬の病気や体調不良等の症状に早く気づき対応することが馬取扱者には常に求められている。このことを肝に命じつつ健康で丈夫な馬づくりの日常管理をしようではありませんか!!

AVC(アニマルベジテイションカレッジ)の生徒による馬の手入れや引き馬の一コマ:馬取扱者はこのような日常の馬の世話の際に感じられる馬の仕草や馬に触った時の感触などの違いをチェックしておかなければなりません。

1.主な病気

1)外傷

① 馬は他の家畜に比べて外傷を発症する頻度が高い動物です。
② 皮膚や粘膜が切れて創・傷(きず)の中身が見える場合は創傷(そうしょう)と言い、皮膚が切れずにその下(皮下組織)が傷付いている場合は挫傷(ざしょう;原因に打撲、衝突、転倒、墜落、蹴傷など)と言います。
③ 創傷には、原因、形、性状から、切創(せっそう・きりきず)、刺創(しそう・さしきず)、挫創(ざそう)、裂創(れっそう・さききず)、咬創(こうそう・かみきず)、縛創(ばくそう・しばりきず)、轢創(れきそう)、銃創(じゅうそう)、弁状創(べんじょうそう)などがあり、細菌感染の有無から感染創(化膿創、不潔創)と清浄創(無菌創)とに、新旧により新鮮創と陳旧創などに分けて表現します。

(1)創傷(そうしょう)について
① 局所の出血と痛みを伴います。
② 痂皮下(かひか)の治癒;最も簡単なものでは痂皮(かさぶた)で治るもの。
③ 第一期癒合(ゆうごう);1週間以内に創(きず)が治るものを言う。
④ 第二期癒合;治るのに時間がかかり、創痕(そうこん)も大きいものを言う。
⑤ 家畜の創傷は毛や土で汚れていることが多く、第二期癒合に該当する創が多い。
⑥ 創が小さく、出血も少ない時は、創傷のまわりの毛を刈り→オキシドールや0.1%アクリノール液、0.5%クレゾール石鹸液などでよく洗い、消毒→縫→0.1%アクリノール液で湿布→抗生物質やサルファ剤で化膿防止を行うこと。
⑦ 化膿している時は;排膿・排液→創を良く洗い→稀ヨードチンキで消毒→抗生物質やサルファ剤入りの軟膏を塗ること。
⑧ 獣医師法に触れる可能性があるので、罹りつけの獣医師と相談・指示を得ることが必要です。

左図:レース中の追突によって発症した球節部~繋部の創傷(弁状創とも言います)。
右図:左図の症例馬における近位種子骨骨折を示しています。創傷と言っても種々な形状があり、しかも時には骨折を発症している場合もあります。

(2)挫創(ざそう)について
① 出血や血腫(けっしゅ)、時に骨折、内臓の皮下への脱出(ヘルニア)、内臓破裂などがあります。
② 軽い挫創は、ヨウドチンキやカンフルチンキ、消炎用軟膏を塗擦(ぬってすりこむ行為)するだけ。
③ 血腫は3~4日後→内容が透明になったら→切開し、創傷(そうしょう)と同じように治療・処置をすること。
④ 熱や痛みのあるものは、冷水か氷などで冷やすこと。冷やすのは1週間以内とし、その後はむしろ温めることが肝腎です。

左側:道南の大沼公園プリンスホテル周辺の小沼。
右側:上高地の中川の清流。

(3)馬具創(ばぐそう)
① 鞍(くら)、頸環(くびわ)、腹帯(はらおび)などで起こる外傷で、早期に完全な治療を行わないと、脱毛、潰瘍(かいよう)を起こし、治癒が長引きます。治療法は挫傷と同様です。
② 馬具の不適合、過激な騎乗、乗御法の不良などによることが原因で、注意すれば馬具創の予防になります。
③ いずれにしても痛みや腫れを検査し、早期発見につとめることが肝腎です。

2)運動器病について

(1)跛行(はこう)・ビッコ
① 跛行は、関節、筋肉、腱、靭帯、骨、神経、蹄などの運動に関係する部分・器官に痛みや麻痺があり→四肢の機能が障害され→異常歩様が現れます。基本的には3タイプがあります。
② 支柱跛行(しちゅうはこう);支跛(しは)とも言い→肢が体重を支えるときに痛く、負重期を短くするために、対側肢を早く地面に着けるので歩幅の後方が短くなります→一般に腕節や飛節などから蹄にいたる下脚部の病気にみますが、蹄の病気は典型的な症状を示します。
③ 懸垂跛行(けんすいはこう);懸跛(けんぱ)とも言い→肢を挙げたときに痛く、前方への推進が障害され対側肢の前方への歩幅が短くなります→支跛とは逆に四肢の上脚部の筋肉の病気などによく見かけます。
④ 混合跛行(こんごうはこう);混跛(こんぱ)とも言い→上脚部と下脚部の両方が障害されている時に多く観察されます→関節の病気に現れやすい跛行です。

(2)骨の病気について

左図:骨の部位名と骨の内部構造;骨には管骨のような長骨と前膝・腕節の骨のような短骨、そして肋骨のような扁平骨があるが、ここでは長骨の図で説明しますが、左側の3と右側の3は骨端線・成長帯と呼ばれ骨の長さを成長させる部位です。骨が成熟するとこの骨端線が消失してしまいます。また、この骨端線では栄養や運動などの影響を受け易く、いろんな骨の病気を発症させる部位でもあります。馬の成長期には骨端線を注目する必要があります。
右図:骨端線・成長帯の消失時期(骨端線閉鎖・こったんせんへいさとも言う)を示しています;この図のように四肢の末端である蹄骨から骨端線が最初に消失し、順次肩の方へと進み最終的には脊椎の骨端線が消失して骨の成長は終わるのです。その骨端線閉鎖時期の最終年齢は馬の場合満5歳です。従ってダービーへ出走するような馬は未熟な骨成長の段階にあるので、よっぽど上手に成長させた馬なのです。

① 馬体の基本構造である骨は、靭帯、軟骨、関節で連なり、関節軟骨にはカルシウムが沈着して骨となります。
② 大腿骨や管骨(かんこつ・第3中手骨)のように長骨の化骨は、骨端部と骨幹部に化骨核が出来、骨幹と癒合して3個の骨が一個の骨として完成・成長します。癒合部位を骨端線・成長帯と言います。
③ 馬の全身骨の完成・成長は蹄骨から順に上脚部へと進み、最終的には脊椎で、満5歳で完成した骨・馬体になります。
④ 骨格の完成までに無理な成長・過激な運動や高栄養の餌などで飼育すると悪影響が体の各所に出てきますので、骨の成長度合いと相談しながら馬を作り上げていくことです。
⑤ 幼若馬に起こる骨の栄養障害(カルシウムとリンの栄養バランス)はクル病、同じ原因で成馬では骨軟症と言う骨の病気になります。
⑥ 骨の限局性の病気では、骨膜の腫れ(骨膜炎)や骨増生(骨瘤)。外力作用による離断(骨折)。骨髄の化膿性変化(骨髄炎)、関節軟骨の病変(骨軟骨症・こつなんこつしょう)などがあります。
⑦ 骨瘤は、飛節、管部、繋ぎなどの骨に発生し易い病気です。
⑧ 骨折には、完全骨折、そして骨亀裂などの不完全骨折があります。
⑨ 骨折のうち骨周囲の筋肉、神経、血管なども同時に傷つける場合は、複雑骨折と言い予後不良(よごふりょう・治らない病気)になる例が多くあります。
⑩ 完全骨折では、激しい痛み、腫れ、出血、変形、負重不可などで、診断が容易ですが、発症部位や骨折の種類によっては診断に苦労することになります。
⑪ 不完全骨折では、Ⅹ線診断などによらなければ診断は困難を極めます。
⑫ 馬での完全骨折は、他の小動物と異なり、治療が困難なことが多いのですが、近年では獣医師の技術向上や最新の治療・診断器具の改善等により治る率も多くみられます。

(3)関節の病気について

左図:球節を縦割りした時の模式図;関節は骨の端同士が組み合わさってスムーズな動きや走りなどを行う部位ですが必ず骨の端には関節軟骨があり運動負荷に対するクッションの役割を果たしています。更に関節腔には関節絨毛で作られる関節液を容れ、滑らかな関節運動を助けています。また、関節液を漏らさないように関節包・靭帯組織で包んでいます。しかし関節に障害が発症するとこれらの組織が反応することになり症状・炎症を示すことになります。
右図:筋肉から腱になり最終的には骨に確りついている様子の模式図;筋肉の大半は腱を介して骨に確りと固着(筋腱移行部・きんけんいこうぶとも言う)しています。また運動する際には筋肉の激しい収縮動動・強い力がこの筋腱移行部にかかるため、滑液嚢・かつえきのうと言う多くの粘液を容れた嚢・ふくろを備え腱線維間の摩擦を防いでいます。従って過激な運動や異常運動の際には、この部位に炎症が起こりいろんな障害を発症することになります。

① 骨と骨とを靭帯や軟骨などで連ねた部分が関節であり、関節液を含む関節嚢(かんせつのう)で包み可動性がある器官です。周りをいろんな靭帯で固定(関節包・関節靭帯)しています。
② 運動性も関節の部位により異なります;頸椎のようにいずれの方向にも動く関節、一方方向にのみ可動する球節、膝関節、飛節など、蹄関節のように動きが比較的制限されたものまであります。総じて前方への直進運動に好都合な仕組みになっているのが馬の関節です。
③ 関節の病気の原因は、限局するものが多いのですが、全身的な原因によることもあります。
④ 部分的な病変には、外傷(がいしょう)、捻挫(ねんざ)、脱臼(だっきゅう)、関節炎などがあります。
⑤ 馬では、つまずいて(蹉跌・さてつと言います)前膝(まえひざ・腕関節のことです)を地面にうちつけたり(冠膝かんしつと言います)、対側の球節内側に蹄を打ちつけたり(交突こうとつと言います)、後肢の蹄で前肢の球節後面を傷つけたり(追突ついとつと言います)があります。
⑥ 捻挫・ねんざは、関節の正常可動範囲以外の力が加わったために起こり、関節嚢(かんせつのう)や靭帯(じんたい)を傷めた状態をいいますが、ある一定方向にたいして屈曲した時に痛みがあるのが特徴です。
⑦ 脱臼・だっきゅうは、関節の正常な結合を失った状態を言います。多くは外傷性によって起こります。程度によって完全脱臼と不完全脱臼があります。
⑧ 関節炎は、馬では多いです。打撲などの鈍性外力、細菌感染などが原因で起こります。
⑨ 関節嚢内に水様性物が貯留して腫れ、熱、痛みの強いものは→急性漿液性関節炎と言います。細菌感染から全身の発熱の伴うものは→化膿性関節炎と言います。捻転などにつづいて痛みや熱が少ないが腫れが継続しているものは→慢性関節炎と言います。関節周囲に骨様物ができ関節癒着を起こすものは→変形性関節炎と言います。
⑩ 急性で熱や痛みのある時は→冷却と安静が必要です。慢性化の例は→温め、焼烙、刺激剤の塗布などの処置が必要になります。

左右図:競走馬の球節脱臼症例;左図で示すように、レース中の脱臼発症例ですが、この馬は生前に球節炎や遠位種子骨靭帯炎の既往症(古くから持っている慢性の所謂球節炎)があり、この球節部位が弱っていたために脱臼を発症してしまった例です。右図で示すように、脱臼部位の剖検肉眼所見ですが、明らかに遠位種子骨靭帯や球節は慢性の病気を持っているために基節骨・繋の骨から完全に剥離してしまい脱臼へと進んだのです。古い慢性の病気を持っている場合にはかなり慎重な運動・動作が要求されることに注目して下さい。

(4) 腱、靭帯、滑液嚢(かつえきのう)の病気について
① 腱は、筋肉の一端または両端にあり、関節部を通るときには摩擦が多くなり炎症防止用に滑液嚢を有し、特に四肢下部の腱には強い力が作用し傷害が多くなります。関連する靭帯や滑液嚢(滑液嚢とは、腱や靭帯が激しく動く・作用する部位にはお互いの磨り減り防止に僅かな液体をいれたフクロをもって炎症を防いでいる部位を言います)の病気を引き起こします。
② 腱の病気に、競走馬に多い致命的な不治の病と言われる腱炎(屈腱炎)、あるいは腱断裂などがあります。
③ 特に浅屈腱、深屈腱、繋靭帯の炎症が多く、屈腱炎と言われ⇔この腱炎は人間の癌と同様に不治の病と言われるくらい治り難い病気です。
④ 腱炎は装蹄や削蹄の失宜、過度の運動負荷などが原因であることが多い。
⑤ 腱炎の治療として、冷却、物理療法、薬物投与、休養などがあります。
⑥ 腱炎の予防としては、肢勢に合った合理的な削蹄や装蹄をし、無理な力が腱にかからないようにすること。また馬場・走路の整備。一方では、腱の構造上、筋疲労を発症させないことです。運動後は必ず触って熱感の有無を調べることが肝腎です。
⑦ 腱断裂は、瞬間的な強い力が腱に加わった場合、腱と骨との付着部などが弱くなっている場合などに発症し、治療不可能が多い病です。
⑧ 腱鞘炎は、競走馬の前膝・腕節の後面、管部(第3中手骨)の下半分から球節の後面、飛節の後上部などに帯状の腫れと痛みと熱が出ます。慢性では腫れだけになり、痛みや熱はないので厄介です。
⑨ 滑液嚢炎は、球節の後上部などに限局した腫れとして現れたり、蹄骨の後上部にあるトウ嚢の炎症が起こり原因不明の軽い跛行があります。

腱炎の発症メカニズム:不治の病と言われる腱炎は、いろんな原因で発症しますが、ここに示しているように最初は主に外傷によります。小さな顕微鏡的な病変(ミクロ)と肉眼的に大きな病変(マクロ)に分けられますが、不治の病と言われる競走馬の場合はこれらに予め病変をもっている部位に過激な運動が加味されて腱線維の断裂から起こっていきます。従って、予防には大小にかかわらず古い病変に早く気付くことです。それには、運動後は必ず腱の部位を触診(熱や痛み、腫れ)することです。腱の役割からして筋肉疲労も気づきの最大ポイントです。

(5) 筋肉の病気について
① 運動の起動力は、筋肉の収縮によりますが、馬の筋肉の病気は意外に多い。
② 筋肉の外傷や、強い急激な伸展力が筋に作用した際に起こります→『肉ばなれ』では筋の不全断裂が起こり、その後に筋炎が起こることがしばしばみられます。
③ 肩、背、腰などの筋肉の痛み・筋痛と硬結(しこり)は→筋肉リウマチ・筋炎を疑います。
④ 重種系に多く、栄養の良い、常に労働している馬が→急に1-2日休ませた後に→労働を30~60分で背部の筋肉が急に硬くなり動けなくなります→そして血様かチョコレート色の排尿をすることになります→これを麻痺性筋色素尿症(まひせいきんしきそにょうしょう)言い、死を招くことさえあります。

図:筋肉痛の発症し易い体表からみた筋肉;赤字で記した筋肉が筋痛を起こしやすい部位です。筋痛予防には、これらの筋肉を運動前後には必ず触診してみて炎症(痛み、熱、腫れ)の有無を確かめることです。異常が感じられたら上司や獣医師に相談することです。

(6) 蹄の病気について
① 馬は重い馬体を小さな蹄で支えています→そのために蹄の病気が多いのです。
② 馬の蹄は、最外層は硬く弾力のある角質→蹄壁(ていへき・蹄甲ていこう)、蹄底(ていてい)と言い、その内側で蹄の角質(かくしつ)をつくる肉蹄(にくてい)があり、更に蹄骨(ていこつ)の間には地面からの反動を緩和する弾力性のある組織→跖沈(せきちん)と蹄軟骨(ていなんこつ)があり、中心部には蹄骨や遠位種子骨(えんいしゅしこつ・とう骨)、冠骨(かんこつ)の一部などの骨があり、これらには腱や靭帯が確りついています。
③ 出生時の蹄は子宮や胎膜に傷をつけないようにモチモチした蹄餅(ていへい)を有し、数日の成長とともに普通の硬い蹄となります。蹄は3歳前後で完成します。
④ 蹄底は、前肢でほぼ円形、後肢で尖卵円形、後部には蹄叉(ていさ)があります。
⑤ 蹄の成長は、季節により異なりますが、平均1ヵ月1㎝前後の成長があります。
⑥ 完成した蹄の尖端部の角度は、前肢で50度、後肢で55度くらいです。
⑦ 蹄角質の過度の摩滅を防ぐために、成馬では蹄鉄(ていてつ)をつけます。
⑧ 幼駒では15~20日に1回、成馬では跣蹄(せんてい;蹄鉄をつけていない蹄のこと)のものでは30~40日に1回検査し、ヤスリで不整部分を修正するのが良いでしょう。
⑨ 日常の手入れは、1日1回の水洗い、その後の蹄油の塗布を怠らないこと。
⑩ 競走馬では、20~30日に蹄鉄の更新を行います。
⑪ 不整蹄輪(蹄輪とは蹄壁の年輪のように等間隔に走る凹凸の線のことを言う)を防ぐこと⇔蹄輪は病気や環境変化に敏感に反応して不整な蹄輪が出来るので日常の健康管理が重要です。
⑫ 化膿性蹄皮炎は、肉壁の化膿で、蹄の代表的な病気の一つでもあります。
⑬ 蹄への釘付けの失敗は→釘傷(ていしょう)と言います。尖ったものを踏んでできた創は→踏創(とうそう)と言います、蹄の角質のひび割れは→裂蹄(れってい)と表現されます。
⑭ 蹄葉炎(ていようえん)は、長い輸送、穀類の過食、分娩・流産などに起こる非感染性・非化膿性の肉蹄の炎症によって起こる病気ですが、時に死に至る病であり、大変やっかいな病気です。
⑮ 蹄叉部分の不潔な管理によっておこる疾患を→蹄叉腐爛(ていさふらん)と言います。また、放牧地の小石を踏んだ時に蹄底にできた血腫を→血斑と言います。蹄底に発生した悪質な茂生を→蹄癌と言いますが癌ではありません。

図:蹄の側面と蹄底の構造模式図と名称;蹄は馬にとって重要・大切な器官であることから、古くから多くの名称が用いられてきています。従って馬関係者はこの図を含め名称を確り覚え、蹄の日常な蹄管理(護蹄管理)を行うことが丈夫で強い馬づくりには必須の条件なのです。

左図:AVCにおける蹄の手入れの一コマ⇔蹄の水洗い後に良質な蹄油を塗って休ませること。
右図:AVCにおける生徒による乗馬訓練後の馬の手入れ風景。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第4話.=馬の主な眼と皮膚の病気について=
1)眼の病気について

(1)眼の構造

図:馬の眼の外観;馬は第三眼瞼がよく発達している。

図:馬の眼球の縦断模式図と名称;特徴的なのは輝板・タペタムがよく発達している。

① 目は眼球、眼瞼、結膜、涙器、眼筋などの付属機関、視神経からなっています。
② 眼球は、前面から角膜(かくまく)、前眼房(ぜんがんぼう)、虹彩(こうさい)、後眼房、水晶体(すいしょうたい)、硝子体(しょうしたい)、網膜(もうまく)の順に位置し、視神経は脳に連なっています。外側は鞏膜(きょうまく)、脈絡膜(みゃくらくまく)により包まれています。
③ 馬の虹彩は、眼の中央の楕円形の開孔部(瞳孔どうこう)があり、その縁は不整で、特に上縁から顆粒状物が下垂しています(これをブドウ体または黒体とも言ます)。この虹彩は光量で縮小や散大して光の射入を調節している部位です。

(2)眼病の徴候
① 眼の病気に罹った場合は、眩しさ、目やに、涙を流す、眼瞼の腫れ、痛み、結膜の変化、角膜の白濁(はくだく)や光沢の消失。眼に触れるのを嫌うなどの症状を示します。
② 馬の視力障害の判定には;1頭だけ新しい見知らぬ場所を歩かせる→つまずき、衝突、耳の動きが激しいなどで判断します。

(3)馬特有な眼の病気
① 外傷、角膜炎、白内障、緑内障、黒内章、結膜炎、馬特有の月盲などが挙げられます。
② 月盲とは:原因不明。流涙(りゅうるい)、結膜充血、眼瞼腫脹、疼痛、目やに→これらの症状が突然現れ→数日の湿布や点眼で軽快しますが→1~2ヵ月で再発を繰り返し→ついには失明(炎症は起きない)となります。
③ 溷晴虫症(こんせいちゅうしょう)とは:馬特有の疾病ですが、前眼房に牛などに寄生する糸状虫の幼虫(2~3mm)が迷入し泳いでいるのが見えます→ほっておくと角膜炎を発症しますので⇔なるべく早く獣医師による治療・摘出が必要です。

左図:溷晴虫症;↑のように糸状の寄生虫(糸状指状虫の幼虫)がみられます。この場合は直ちに獣医師の手術を受けましょう。(競走馬 2015-3 JRAから転載)。
右図:大正池の散策道から見える焼岳。
2)皮膚の病気について

(1)皮膚の構造
① 体表から順に表皮、真皮、皮下組織からなり、皮脂腺、汗腺、毛を付属器官としています。
② 表皮は部位によって厚さが異なります。
③ 真皮は血管と神経が分布し、皮下組織には脂肪が発達しています。
④ 皮脂腺は真皮の表層部にあり、毛と皮膚に脂肪を与えています。
⑤ 汗腺は真皮の深部にあり、汗を分泌しています。
⑥ 馬の汗腺は他の家畜よりも良く発達しています←体温調節に役立ています。
⑦ 皮膚の厚さは種類、性、年齢、部位により差がありますが⇔改良種、雌、若齢で薄く⇔特に血統の良いサラブレッドでは薄いです。
⑧ 皮膚の役割は、外界からの保護、感覚器、脂肪の貯蔵器、分泌器、体温調節器として多くの作用を有しています。

図:皮膚の顕微鏡的構造;左側図は皮膚の大まかな組織像であり、右側図は表皮の拡大像を示しています。皮膚や毛の色はメラニン細胞の働きが活発である場合は茶色や黒色になるのです。また、真皮層~皮下組織には脂肪や結合組織があり、ショック・アブソウバーとしてのクッションの役目、あるいは多くの小さな血管は体温保持の役割をはたしています。皮膚のアカは皮膚の表層にある表皮の剥離層や角質層から出来ているのです。
皮膚病になり、局所的に赤くなったり腫れ、熱があったりするのは、主に真皮や皮下組織に炎症が起こっている証拠になります。

(2)皮膚病になった時は?
① 皮膚に弾力がなくなり、毛の光沢を失い、粗剛となります。
② 脱毛、発赤、黄色、暗紫色、蒼白色などの変化がみられます。
③ 丘状の腫れ、かゆみ、こすりつけ、毛の擦り切れ、ただれなどの症状がみられます。

(3)皮膚病の主な病態・症状は?
① 湿疹(しっしん):原因は、手入れ不良、体質、薬物刺激などで起こります。その症状は、初期には紅斑(こうはん)から順に→丘診(きゅうしん)→水疱(すいほう)→膿庖(のうほう)→びらん→結痂(けっか)→落屑(らくせつ)となる傾向にあります。かゆみが強く現れます。
② 蕁麻疹(じんましん):原因は、薬物、中毒、寒冷などで起こります。症状は、丘診が主体となります。かゆみは必ずしもないのですが、症状が現れる経過は早く起こります。
③ 禿毛症(とくもうしょう):原因は、栄養変調や神経の変調などです。症状は、円形、不正形の脱毛がみられます。
④ 夏癬(かせん):原因は、アレルギー説、寄生虫説がありますが、症状は、夏季に長毛部の皮膚炎を発症します、かゆみを伴います。
⑤ 顆粒性皮膚炎(かりゅうせいひふえん):原因は、胃虫の幼虫寄生によることが多く、症状は、春夏に発生し、四肢下部に小結節を形成し、かゆみ、潰瘍、皮下組織増殖へと進む傾向にあります。
⑥ 疥癬症(かいせんしょう):原因は、苔癬虫によりますが、症状は、強いかゆみと激しい皮膚炎が起こります。
⑦ 真菌症(しんきんしょう):原因は、真菌・かびによって起こりますが、症状は、円形脱毛、水疱、結痂、落屑(らくせつ)からなります。

競走馬の主な皮膚病:(競走馬 2015-3 JRAより転載)。
左図;細菌性皮膚病。中央図;真菌性皮膚病。右図;蕁麻疹。

左側:上高地の静寂な梓川右岸コース散歩道。
右側:上高地の静寂な大正池散策道。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第5話.=馬の主な消化器の病気について=

上高地の初春における静寂な田代池。
4)歯の病気について

① 斜歯(しゃし);歯換わりの異常や摩滅の不正により→下顎臼歯の内側(舌の側面の潰瘍を発症)と上顎臼歯の外側(頬粘膜の潰瘍を形成)とが鋭利になることで内外の粘膜に潰瘍を形成しますので、斜歯の発生部位を特定できます。
② 虫歯;歯の腐蝕・ふしょくのことです。上顎の第3と第4臼歯がかかり易いです。痛みや悪臭があり、採食に時間がかかります。
③ 裂歯(れっし);石などで歯が割れることです。
④ 歯肉炎;細菌で歯肉が侵されることです。
⑤ 歯槽骨膜炎(しそうこつまくえん);歯槽におきた炎症を言います。虫歯や臼歯の生え換わりや、歯肉炎から起こります。古馬によく見られます。下顎の中央部に多く、下顎骨が外から腫れているのが良く分かります。
⑥ 歯が悪くなることによって→食欲があっても採食、咀嚼(そしゃく)に時間がかかります。また、頭を傾けて採食し、口から食塊をこぼします。
⑦ 鋭い歯で舌や頬を傷つけて→口内炎を発症し、虫歯では口臭が強くなります。
⑧ 歯の疾患では一般的には消化不良や栄養不良となります。
⑨ さく癖:馬の癖の一種であるが切歯の異常摩滅(上顎切歯前面の斜めの摩滅がみられます)が起こり→空気を胃に呑み込むので→消化不良や→疝痛(せんつう)の一種である風気疝(ふうきせん)を発症します。

左図:臼歯における斜歯の正中断面像;馬の歯の噛み合わせ面を咬合面とよびますが、この咬合面は、健康な馬で上顎臼歯(奥歯)が下顎臼歯より30%ほど歯が広く下顎歯のほうが狭くなっています。しかもお互いの咬合面は15度~35度の傾斜がついていて、内側が高く外側が低いので、上顎歯を被っている硬いエナメル質が年齢と共にいびつに磨り減り(矢印)、外側が尖鋭となり、その先端が頬の粘膜に糜爛・潰瘍を作ることになります。一方の下顎歯は同様に傾斜角度の関係で内側が尖鋭(矢印)となり舌を傷つけることになります。特に古馬で飼い食いが悪く痛がり痩せてくるようなら、口腔内の検査が必要になります。
右図:咬合不正図;上段はカケス(下顎短小)、下段はスクイ(上顎短小)の図です。
上段のデッ歯と下段のソッ歯は前歯の切歯の噛み合わせの悪い状態を表していますが、正しい食物摂取ができない歯並びです。極端な馬は淘汰される運命にあります。カケスは上顎の第1臼歯と下顎の第6臼歯がうまくかみ合わずにトガッテてきます(矢印)。スクイは上顎骨の発育が悪く、下顎の切歯が前にでている場合で、下顎の第1臼歯と上顎の第6臼歯がうまく咬み合わずにとがってきます(矢印)。
5)胃腸の病気について

① 馬の腹腔内の臓器の痛みを表す病気を疝痛と言います。競走馬の内科病の10%を占めています。
② 大腸便秘や痙攣疝(けいれんせん)では→無痛期と疼痛期が交互に生じるので、病名判断の目安になります。特に馬は腸を支配している神経が敏感なので天候の急変や寒冷、不良飼料の給与は避けなければならない。
③ 変位疝(へんいせん)→痛みが激しい腹痛です→前掻(まえがき)期、後躯を顧みる、あるいは背を屈してうめく、苦悶(くもん)の状を示し→体温、呼吸、脈拍が激しく、発汗や粘膜の充血をみます→36時間以上つづくときは危険な徴候です。特に馬の腸は長く(小腸)不安定(大腸)で位置を変えやすいので、転倒や激しい運動は避けなければならない。
④ 風気疝(ふうきせん)→発酵し易い飼料の給与、運動不足、さく癖、便秘疝や変位疝に継発する場合もあります。
⑤ 過食疝(かしょくせん)→食べすぎて胃の内容物が十二指腸へ送り込めない状態だが、馬は胃の容積が小さく嘔吐ができない胃の構造になっているためです。休養馬に多いので注意しましょう。
⑥ 寄生疝(きせいせん)→寄生虫の寄生による胃腸の損傷によって起こります。
⑦ 血栓疝(けっせんせん)→寄生虫が腸に分布する血管に寄生して腸の機能を損なわせるために起こる疝痛です。
⑧ 予防:日常の飼養管理が最も大切です→日常は水を十分に給与、穀物の過給をさけ、餌や飼養環境を急に変更しないこと、または感冒などを防ぐこと、定期的な駆虫、運動不足、不良な飼料を与えないなどです。
⑨ 幼駒では、胃腸カタルが時々発症(多くは水様の下痢性分泌物、粘膜の腫れのある炎症)→母乳不良(発情時に多い)、管理の不良、感冒、天候不順、寄生虫症、細菌性中毒などで発症します→下痢、粘血便などがあり、脱水で死ぬこともあります。

左側:主な疝痛の原因と症状。
右側:乗鞍休暇村の森林。

図:健康な時の左側の腹腔と骨盤腔の内臓位置(牝馬)の模式図;盲腸は腹の一番下に位置し、その上に結腸そして更にその上には小腸(空腸)が位置しています。各々の腸の状態を把握する際には、各部位の異常音を聞くことによって腸の異常部位をキャッチすることが可能になります。

図:小腸変位(疝痛)の発症した時の模式図;いろんな変位の仕組みがありますが、疝痛の症状から早期に発見し対処することですが、下段の図の状態では大掛かりな手術となります。
6)寄生虫病について

① 馬虻幼虫、回虫、蟯虫、円虫などの寄生虫による胃腸病が多いです。
② 円虫(硬口虫)の一種であるストロンギルス属の→幼虫が大動脈に寄生し→動脈瘤・血栓を形成し⇔腸に分布している血流の不整により疝痛(血栓疝)の発症を起こします。
③ 症状は、栄養状態が悪くなり、痩せ、毛艶(けずや)がなくなります。元気がなくなり、下痢や便秘を起こし疝痛になりやすいです。大量寄生では貧血になります。また、通常は食さないようなものを食べたり・舐めたりするようになります。
④ 予防:
→定期的な虫卵検査と駆虫が大切です。
→堆肥の発酵で虫卵を殺す作業を怠らないことです。
→汚染した放牧地を休ませ(輪換放牧)、土を消毒することが必要です。
→湿った牧野は寄生虫媒介の一助になるため、その改善が必要(暗渠・あん
きょ)です。
→糞便(ボロ)に虫体がみられた際には、直ちに駆虫をすることです。

左図:常習的に疝痛症状を発症していた競走馬(2歳8ヶ月齢、♂)で、剖検の結果は、大動脈~腹腔動脈の寄生虫による血栓形成のために腸機能が不良となり腸捻転(血栓疝)で斃死していました。
右図:馬の消化器に寄生する主な寄生虫と虫卵。左図でみるような血栓は馬円虫による血栓で血栓疝と言われる常習的な疝痛です。
7)栄養に関する病気について

① 馬で栄養の不均衡で生ずる病気には、骨軟症とクル病があります。
② 骨軟症:
*飼料中のカルシウム含量の不足とリンとの比が不適当で→骨のカルシウムの減少が起こり→骨が柔らかくなり→骨折を起こします。
*ビタミンD、タンパク質、運動などの不足→冬期間の長い地方で日光照射不足(ビタミンD)などが原因で起こります→カルシウムとリンの比率は、2: 1が望ましい。
*症状・病態は、顔の骨の腫れ、歯の調子が悪い、原因不明の跛行や歩様不安定、特に背腰部の圧覚が過敏になります。
③ クル病:
→幼若な馬に起こった骨軟症と同じ原因で発症した病気です。
→カルシウムの骨への沈着を不完全になるために起こります。
④ 中毒:
*飼料中に混在した毒物。
*アルカロイドを含む植物→エゾネギ、ニセアカシア樹皮など。
*シダ類では、ビタミンB1分解酵素を含むため、ビタミンB1不足が起こるためです。
*その他に変敗した飼料、工業排泄物による重金属中毒、農薬や医薬品の誤飲などによって中毒を発症します。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について

第6話.=馬の主な呼吸・循環器の病気について=
1)呼吸器病について

(1)鼻漏と咳;
① 馬は健康な時、鼻漏(びろう)を出すことは稀です。
② 蓄膿症(ちくのうしょう)、喉嚢カタル、鼻腔内腫瘍←片側の鼻孔からの鼻漏が起こります。
③ 鼻カタル、気管支炎、肺炎←両側の鼻孔からの鼻漏をみます。量は、鼻カタルで少なく、気管支炎や肺炎では多い傾向にあります。
④ 蓄膿症←頭を下げたときに一時的に鼻孔から多量の鼻漏流出が起こります。
⑤ 咳は、上部気道の病気の場合は→朝夕に咳が強く、肺の病気では→痰を伴うことが多いです。

(2)呼吸状態;
① 健康な馬は→呼気時に軽く肋骨をあげ、腹部を少し外方に拡張し⇔いわゆる胸腹式呼吸をします。
② 腹膜炎、腹水、胃拡張では→胸だけで呼吸します⇔胸式呼吸です。
③ 胸痛や肋膜炎では→腹部だけで呼吸⇔腹式呼吸です。
④ 努力性の呼吸困難の徴候は→鼻翼(びよく)の拡張、肋骨を強く広げて、肛門呼吸(呼気性呼吸困難で認められる症状の一つですが、腹腔内圧で肛門が呼気時に突出し、吸気時に骨盤腔側に陥没する状態を言います)をします。慢性肺胞性気腫、慢性気管支炎や胸膜の癒着(ゆちゃく)などで起こります。

(3)鼻、喉頭の病気
① 馬では鼻カタルが→多く発症し、急性型は秋、冬、初春の鼻かぜにみられます→鼻粘膜の充血、乾燥がみられ、呼気時には熱く、水様性の鼻漏を出しますが、多くは1~2週で治ります。慢性型は、蓄膿症や他の呼吸器病を併発し→鼻粘膜の肥厚があり、粘液状か膿性の鼻漏を出します。
② 鼻出血→競走馬に多くみられます→原因は外傷、競走中の血圧上昇、血液病、出血性全身病などが挙げられています。
③ 蓄膿症(顎洞炎がくどうえんとも言います)→時折みられます→鼻カタルや腺疫(せんえき)につづいて発症し←一側性・片側だけの発症です。治療期間は数ヵ月の長期間を要します。
④ 喘鳴症(ぜいめいしょう)→2~3歳の競走馬に多く発症します→競走中に反回神経の麻痺により→声帯が弛緩し→呼吸困難となり、異常な呼吸音を聞きます。

(4)気管、肺の病気
① 急性気管支カタル→幼駒や、虚弱体質馬、あるいは栄養不良馬に多く発症します→主に感冒に続いて発症し→突然の発熱と咳、食欲不振→呼吸困難の症状をしめしますが⇔安静、保温、栄養の手当てなどを行うことによって→多くは2~3週で治ります。
② 肺充血と肺水腫→一般に栄養の良い馬で、重労働・過激な調教、長距離輸送、日射病などが原因で起こります→肺の充血と肺の水腫が起こっているために→突然の呼吸困難を示し、経過は早く、12~24時間で死か治るか、あるいは肺炎を発症します→胸を冷やすのが良いでしょう。
③ 肺炎→馬ではクルップス性肺炎が多く→突然の発熱『40.5~41.5℃の高熱が続いた後、急に下がる』→呼吸困難、咳は比較的少ない。多くは8~14日で食欲回復→保温、安静、消化の良い飼料を与えること。
④ 慢性肺気腫→老齢馬に多い→多年の過労が原因→呼吸数は健康時の2倍を超える→二段呼吸⇔適当な治療法はない→安静、消化の良い飼を与えること。

左右図:気管~肺胞までの肺内における空気の流れ図;馬の呼吸細気管支に弱点部分があり、終末細気管支(赤線部分)と言うガス交換を行う肺胞の直前部分の細い気管支の粘膜に構造上の欠点があり、そのために肺炎に罹り易い。従って鼻かぜなどの軽い症状でも重症になる可能性をもっていますので、飼養管理(呼吸や熱)には細心の注意が必要になります。
2)循環器系病、泌尿器系病について

(1)心臓病
① 血液循環障害の結果として出てくる症状は、元気、食欲不振、疲れ、発汗、心拍数増加、特に呼吸困難→下腹部や四肢下部のむくみです。→このような症状が出てきた場合は、まずは獣医師による心電図検査が必要となります。
② 競走馬では他の家畜に比し不整脈が多い動物です。心筋の変化・肥大(心臓肥大やスポーツ心臓と言われる状態)、弁膜症(べんまくしょう)などが多い。一般的には心衰弱としてとらえられていることが多いですね。
③ 心臓衰弱→心臓の機能が全般的に衰えている状態を説明する漠然とした用語ですので、現在は殆んど用いられていません。むしろ『心不全』と言う言葉が用いられています。
④ 軽症の場合は⇔日常の体調に比べて少しの動作でも呼吸数の増加、発汗、倦怠(けんたい)、心拍数増加などがみられます。
⑤ 重症の場合は⇔脈が細く不整、可視粘膜の暗紫色、意識溷濁(いしきこんだく・ボンヤリした状態)、突然の痙攣(けいれん)→体温下降し→死にいたることがあるので注意が必要です。

上下図:心臓が悪く体調がすぐれない時は心電図から情報を得る;上図は心臓が正常に働いている時の状態(刺激伝導系しげきでんどうけい)を心電図と関連させて図化したものですが、下図に示すように競走馬の場合は心房細動と言う心臓病(上図のP波が不完全な状態で下図のようにP波が無くなり、心臓が震えている状態を表わします)が多くみられます。

(2)血液に関する病気
① 血液は、血液の病気のみでなく、あらゆる病気の時に変化しますので、健康状態を把握するには良い指標の一つになります。
② 血液検査の結果は、病気の診断、治療。経過判定に重要な手がかりを提供してくれます。
③ 馬には人間よりも多くの血液型があり、輸血のさいには型の適合を検査する必要があります。例えば雌雄馬と種雌馬の血液型不適合は、新生仔黄疸を起こし子馬が死に至る場合があります。
④ 貧血→中毒、寄生虫、ウイルス(伝貧;伝染病である馬伝染性貧血)などが原因で起こります。→血液破壊や脊髄での赤血球造成の阻害、あるいは栄養不良となり、→粘膜の蒼白色、疲れやすい、心臓衰弱と言った症状がみられるようになります。
⑤ 馬の全血液量は体重の15分の1ですが、その3分の1を失うと生命に危険な状態になります。

図:血液中に流れている赤血球と白血球の生成過程からその主な作用を模式化した図;病気を診断するに当たり、獣医師は先ず血管から血液を採取して血液検査をしますが、血球の状態・特徴あるいは数などから病気を分類し治療方針を決めるわけです。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第7話.=馬の主な泌尿生殖器の病気について=

図:伊豆スカイラインから見る富士山
1)腎臓について

① 腎臓は、血液の浄化装置で、血液成分を恒常的(こうじょうてき)に保つうえで重要な役割をしています。
② 病気の場合は尿(色や量、臭い、濃度)に変化が現れます。
③ 腎炎では、タンパク質のほかに赤血球や白血球を尿に排出→呼気に尿臭、時に失神、痙攣などの尿毒症で死にいたることがあります⇔安静にし、保温、濃厚飼料を少なくすることですね。腎炎はインフルエンザや感冒につづいて発症するので注意が必要です。幼駒では臍帯の細菌感染により全身各所の化膿性疾患となり、予後不良で死亡することが多い。生後12時間以内に必ず初乳を飲ませて感染予防に気配りをして欲しいですね。

図:化膿性腎炎;予定より2日早く生まれ、虚弱なため初乳を飲んでいない。そのため体の抵抗力(免疫抗体)に乏しく、臍帯感染からの細菌感染で播種性の化膿性腎炎(白い斑点物)と、肺炎さらには両側飛節関節炎を発症し生後4日齢で死亡。アクチノバチルス菌が検出されている。
2)繁殖に関する病気について

(1)不妊症
① 生殖器の病変に原因し、誘因として日常の飼養管理(特に栄養管理・太り過ぎなど)の不適切によるホルモンの不均衡などで起こります。以下に示すように繁殖牝馬の日常の飼養管理をしっかりすることですね。
② 各種ビタミン(特にビタミンE)、鉱物質(ミネラル)の不均衡による体質の弱体化でも不妊症になります。
③ 運動不足や過肥による全身の不調からくる卵巣機能不全(らんそうきのうふぜん)によっても起こります。
④ 不妊症の直接的原因は⇔卵巣発育不全、卵巣萎縮、卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)⇔などから起こる卵巣機能の減退。⇔分娩時の助産不適による子宮や膣の炎症による後遺症でも起こります。
⑤ 馬では、栄養不良や運動不足、老齢など→膣が緩んで尿が骨盤腔側に落ち込んで逆流する結果→子宮内膜炎を発症します。分娩時に膣壁が破れて直腸と連なり子宮内膜炎を発症し⇔死に至ります。

(2)流産
① 馬の妊娠期間はほぼ11ヵ月だが、10ヵ月以内で流産することあり→原因として非伝染性と伝染性があります。
② 非伝染性流産
→原因不明が多いのですが、→腰腹部の打撲、激しい下痢、ホルモン不均衡。
→あるいは、ビタミン不足、運動不足、濃厚飼料過給などで体質の虚弱。
→予防としては;適度な運動、良好な飼料配合、打撲の防止などです。
③ 伝染性流産→馬パラチフス菌(馬の流産菌)による流産ですが、感染後10~14日で発病し、妊娠後期に流産します。流産胎仔等からの菌分離あるいは血清反応によって診断しますが、届出伝染病に指定されています。子馬に本菌が感染した場合は臍帯炎、慢性下痢症が現れ予後は不良です。関節炎や下痢。→予防にワクチンがあります。
④ その他に、双球菌、大腸菌などによる細菌感染。あるいは馬鼻腔肺炎ウイルス(ERV;馬ヘルペスウイルス1型)により仔馬の鼻肺炎や妊娠馬での流産死の原因になります。妊娠末期(胎齢9~10ヶ月)に突発的に流産が起こり、母体にはその後の悪影響はありません。
⑤ 流産予防には、予防ワクチンもありますが、平素から衛生的な飼養管理を行い、適度の運動と必要な栄養を与え、健康維持と体力の増進を図ることが大切ですね。特に飼料、管理方法を急変した場合、あるいは寒暖差の激しい時の長途の輸送などによるストレスは避けることです。

左側:乗鞍休暇村の牛留池から見る残雪多い乗鞍岳。
右側:道南の大沼公園のプリンスホテル周辺の小沼。

左図:上高地の大正池の朝靄と湖面に映る焼岳。
右図:上高地の梓川の朝靄。

(3)難産
難産とは、分娩障害、人為的助産が必要な分娩困難、あるいは正常な分娩経過をとれないものを言います。その原因には、
① 母馬側に原因;→陣痛微弱あるいは過度(強陣痛)、産道狭窄、産道の乾燥、子宮捻転などがあります。
② 胎仔側に原因;→胎位の異常(胎勢や胎向)、胎仔奇形、双子、肢勢不適当、胎仔過大など。

(4)産前産後の起立不能
① 妊娠中の飼料配合の不適や運動不足などで、母馬が立てなくなる病態を言います。
② カルシウム不足が原因の骨軟症馬では骨折によって起こることもあります。

(5) 産褥熱(さんじょくねつ)
① 分娩時にできた産道の外傷などから→細菌感染で発熱する感染症ですが→産後直後か、あるいは3~7日で発症します。
② 体温高く、悪臭のあるおりものを膣から流出→分娩後に子宮内膜炎の原因ともなります。→分娩後は産道の消毒、体温計測、早期発見が大切です。
③ 胎盤は、通常、分娩後まもなく出るが、24時間以内に排出されない時は→人工的に獣医師による除去が必要です。また抗生物質やサルファ剤の投与も必要になります

(6)臍の病気
① 出生後の臍帯が不潔な状態では、細菌感染のために臍帯の腫れや化膿から→虚弱幼駒になったり、敗血症で死に至ることが多い⇔予防には生まれてから12時間以内に必ず初乳を飲ませ、臍帯を消毒することが肝腎です。
② 初乳には免疫グロブリンと言って感染病などに罹らないようにする物質が沢山含まれています。また、馬の場合は人間と違い免疫物質を初乳からのみ得ることが出来、しかも新生子・幼駒は出生後24時間を過ぎると小腸から吸収できなくなる仕組みをもっているので、可能なら12時間以内に初乳を必ず飲ませなければなりません。
③ 臍輪が大きいとヘルニアになりやすいです。

幼駒の臍の病気に関連して:
図上段:ラテックス法;
左側上段に示すラテックス法を示しますが、幼駒の病気に対する抵抗力(免疫力)の有無について初乳中や血清中の免疫グロブリン量を野外で簡便に検査する方法として紹介しています。市販のプレートの円内に血清か初乳を滴下し、試薬と混和して5分後に凝集度合いで判定する方法です。
右側上段の図は、新生駒の初乳中に含まれる免疫グロブリンの小腸からの吸収率を示していますが、出生後速やかに初乳を哺乳させるなければならないことを示しています。12時間以内に飲乳させることは小腸から免疫グロブリン(感染予防物質)が吸収され、元気な新生幼駒を作る必須条件となります。馬は24時間を過ぎると小腸粘膜から全く吸収されなくなる仕組みになっていますので。
図下段左右図:幼駒の化膿性臍帯炎;
臍帯根部から膀胱に至る部位で膿汁の充満(↑)。39日齢、多発性関節炎を示した虚弱幼駒です。初乳の飲乳が不十分であったため、ラテックス法で調べた結果は低ガンマーグロブリン血症と診断された症例です。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第8話.=馬の主な中枢神経の病気と伝染病について=

左図:上高地の岳沢岳の途中から六百山を望む。
右図:函館山から函館湾を望む。
1)脳・神経系の病気について

① 馬では比較的少ない。
② 幼駒の奇形が目につきます。

(1)日射病
① 夏の炎天下での直射日光を頭部に受けて発症します。
② 熱射病;過激な運動→体温の発散がさまたげられて発症。
③ 病名は混同されることが多いが、日射病は熱射病と本質的には同じです。
④ 症状は、多呼吸、体温上昇、可視粘膜の充血、胃腸運動の停止、皮膚の知覚麻痺、起立困難などです。

(2)腰マヒ
① セタリア属の糸状虫の幼虫が馬の脊髄内に迷入→脊髄神経を破壊し、後躯の麻痺を主徴とし、うつ、興奮、食欲異常亢進、間欠性麻痺などを現します。
② この虫は蚊が媒介して感染しますので→夏から秋にかけて多発します。
③ 重症では起立不能。数日の急性期の後、慢性に移行します。

(3)神経麻痺
① 打撲→末梢神経が麻痺、あるいは脳の運動神経が侵され、支配領域の麻痺と運動失調を主徴とします。
② 顔面神経麻痺、三叉神経麻痺、反回神経麻痺、橈骨神経麻痺、肩甲上神経麻痺、大脳神経麻痺、坐骨神経麻痺、閉鎖神経麻痺などが知られています。
③ 外傷性は偏側性が多く比較的治りやすいが、脳の異常は治りにくいです。

2)伝染病

(1)伝染病予防の方策
伝染病には法定伝染病と指定伝染病が法律で決められています。

左図:駿河平自然公園に咲く桜 。
右側:上高地の湿原に咲くつつじ。

*家畜伝染病予防法
① 牛、水牛、馬、羊、山羊、豚、鶏、アヒル、七面鳥、ウズラ、ミツバチの伝染病28種・疾病を家畜で指定されています。
② これらを法定伝染病といい、発生した場合は獣医師や所有者は届出の義務があります。
→都道府県知事や市町村長は病気蔓延防止のため、交通遮断、隔離、殺処分、死体の処置などを行うことが義務づけられています。
③ 馬の法定伝染病は8種(流行性脳炎、狂犬病、水疱性口炎、炭疽、ピロプラズマ病、鼻疽、馬伝染性貧血、アフリカ馬疫)です。他に、これに準ずる取扱いをする伝染病(家畜では届出指定伝染病;71種類・疾病)は馬で13種(類鼻疽、破傷風、トリパノゾーマ病、ニパウイルス感染症、馬インフルエンザ、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎、馬モルビリウイルス肺炎、馬痘、野兎病、馬伝染性子宮炎、馬パラチフス、仮性皮疽)が定められています。
また、狂犬病、炭疽、鼻疽、破傷風、流行性脳炎などは人にも感染する人畜共通伝染病に指定されています。
④ 免疫

*人や動物が先天的に、または感染病経過後(後天的)に、ある病気に抵抗性をもつことがあります。これを免疫(めんえき)と言います⇔この免疫を伝染病の予防に利用されることがしばしばあります。それには、先天性免疫と後天的免疫があります。

*先天性免疫⇔馬の伝染病で他の動物に感染しないものや、雄と雌とで抵抗性が異なるものが含まれます。

*後天的免疫⇔病後に免疫がなりたつもので、ワクチンなどが予防に使われます。

*予防のために行う人工的免疫法;自動免疫と他動免疫があります。
◆自動免疫;ワクチンを接種して免疫性を獲得させる方法。
⇔免疫ができるまでの日数を要する半面、効果は長く続きます。
◆他動免疫;免疫した動物の免疫性のある血清を注射して免疫を獲得させる方法。
⇔免疫は直ぐに出来るが、持続時間が短く⇔緊急時の予防や治療法として効果的です。

*馬に用いられているワクチン
◆馬パラチフス、狂犬病、炭疽、破傷風、流行性脳炎、インフルエンザなどです(自動免疫に該当)。

*馬の免疫血清
◆炭疽、馬パラチフス、腺疫、破傷風などです(他動免疫に該当)。

左図:ペリカンの合唱(エサのおねだり;多摩動物公園にて)。
右図:パセリで孵化したナミアゲハ蝶の幼虫。

=馬の生理基準値と健康管理・病気予防について=

第9話.=馬の主な介護と緊急処置方法について=

=馬の介護と緊急処置方法=
馬の病気の治療は獣医師法によって獣医師のみが行うことが出来る行為ではありますが、馬取扱者は病気を早期に気付きその介護を行う必要性から、獣医師や馬管理者に早く相談・知らせ、しかも馬の病気を軽度に終わらせるためにも介護の方法や緊急処置の方法を知っておくことが大切ですね!!

図:多摩動物公園のシマウマ(グレビーシマウマ)とキリン

3.看護の仕方

1)消毒

① 馬管理者や馬取り扱い者にとっては、確実な消毒は予防・治療上で重要なことがらになります。
② 消毒の目的;感染の危険のある病原微生物(細菌やウイルスなど)を殺し、無害とすることです。
③ 消毒法には、熱(煮沸)、光などの理学的作用と、消毒薬などの化学的作用を利用する方法があります。
④ 消毒薬の効果は、濃度、温度と作用時間により決まり、効果にかなりの差異が生じます。

図:各種の理学的消毒法の特徴と適用。

図:主な消毒薬の濃度と適用について。
2)保定法

① 最も安全な方法は、枠場内に保定することです。
② 馬を制御するには、頭部の保定として頭絡を装着し、ハミを付けて行うことです。
③ 治療の際には、枠馬内での鼻端部の鼻捻子での保定が主体ですが、肢の保定には平打縄を用いたり、体側肢の蹄尖を手でつかみ下脚部を持ち上げたりします。
④ 体温保持や輸送中の保護具は、病気・疾患発症の予防的用具となりますので、必ず装着しましょう。

左側:帯畜大の臨床実習場の枠場と後躯平打ち縄:馬を治療あるいは病気診断をする際には、枠場に入れ、平打ち縄で動作を制限し、時には尾を吊るすことも必要です。
右側:鼻捻子Nose Twitchの装着で馬を鎮静させる:この際に馬の鼻孔を避けて装着すること⇔馬は人間と違い口呼吸が出来ないからです。

左側:輸送用保護具は馬体の怪我と保温に応用する。
右側:四肢の保護具の装着。

左側:四肢の肢巻で下脚部や球節、繋ぎの保護用具。
右図:上高地の田代橋からみる焼岳。
3)看護

① 病気の馬には先ず安静と保温に気配りをすることです。
② 食欲不振の時は、消化し易い良質の牧草を主体に与えることです。
③ 起立不能の時は、馬は皮膚が薄いので床ずれ(褥瘡じょくそう)を防ぐために寝藁を多くいれ、1日数回の体位をかえてやることです。時には枠馬内あるいは馬房内で天井から吊起帯(ちょうきたい)で馬体を吊るすことです。
④ 冷湿布、温湿布、マッサージなども心掛けることですね。

4.応急処置と救急常備材料

1)応急処置

① 誤った手当てや、長期間素人療法を続けると、時に病気を悪化させてしまうので要注意です。
② 厩舎関係者は獣医師がくるまでの応急処置にとどめておくことが肝腎です。
③ 適切な応急処置をするためには、馬の生理機能を知り、病気にたいする基本的な常識が必要であることを肝に命じて応急処置を行うことです。

2)投薬

① 内服薬は、水剤の場合はゴム管で経鼻的に投与しますが、素人投薬は行わないほうが良いでしょう👈誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を発症させる危険性があります。
② 散剤は、飼料や飲料水に混ぜて与える👈獣医師の許可を得て行うことをお勧めします。

主な包帯の巻き方:ここでは厩舎用肢巻と尾への巻き方を示しました。

図:シャロレー牧場のドサンコ乗馬達の休憩。
3)包帯

① 巻軸帯(かんじくたい・俗に包帯)は、主に四肢の病変部の固定、創の保護、薬品の保持、創液の吸収を目的として行います。
② 包帯の巻き方;
*初め同一箇所を数回巻く(環行帯)、その後、同じ太さの部位では先に巻いた部分の半分を次の回に覆うように斜めに巻いたり(螺旋帯・らせんたい)、太さが一定しない箇所は1回ごとに折り返したり(折転帯)、関節などでは8字型に交叉させたり(交叉帯)し、終りは再度環行帯で止めるのが原則です。
③ 包帯時の注意点として、包帯の緊張度に特に注意することです。湿布の時にはあらかじめ脱脂綿、ガーゼ、巻軸帯などを湿らせてから装着しないと、強く締まり過ぎることがありますので注意が必要です。

『以上の1話~9話に記載した主な内容・図等は、多くの参考書と共に兼子樹廣・サラブ
レッドの医科学法典(2008)、兼子樹廣・馬の予防医学書=やさしい馬学講座=(2019)、板垣
四郎・家畜診断学(1960)、黒沢亮助・中村良一監修・臨床獣医法典(1960)並びに永田雄三監
修・馬学上下(2006)、軽種馬育成調教センター教材・ABC・第1部、第2部(年号不詳)、
日本中央競馬会・競走馬事故防止対策委員会・競走馬の飼料(1993)を基本資料として参考・
引用させて戴いたことを明記します』

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