馬学講座【馬の学校】アニベジ
馬の学校アニマル・ベジテイション・カレッジは 馬のプロを目指している皆さんの夢を叶えるための学校です。

馬学講座

=やさしい馬学講座Ⅰ=

=馬とはどんな動物か?!!=

馬の諺、馬の進化、分類と品種、歴史、毛色、部位名称、習性、癖、能力等から考えてみたい。

左側:子馬と子供との初めての出会い・接触。右側:BTCでの若馬のトレーニング風景。

相馬に関する日本の諺
=古くから日本では人間と馬との関り合いの言葉が多くある=

1)馬の走法・歩法に関する日本の諺・言葉

*櫪驥(きき)の跼躅(きょくちょく)は駑馬(どば)の安歩(あんぽ)に如かず
跼躅とは行きなやむこと。安歩はゆっくりとした歩みのことである。優れた馬もグズグズしていれば、のろい馬がたゆまず歩みつづけるのに及ばないという意味(兎と亀の諺と同様)。不断の努力の積み重ねが大切であることのたとえとなっている。ヒマラヤの駄馬はもくもくと高峰を目指し、サラブレッドは高貴だが気位が高くわがままで人間の手のもっともかかる品種でもある。反面、頭が良く教え込めば資質が磨き上がる素晴らしさを持っている。駄馬には駄馬の良さ、サラブレッドには駿馬としての良さがあり、いずれも不断の努力の積み重ねによって人間の用途に適した愛すべき馬達となる可能性をもっているのである。

*逆馬(さかうま)
通常とは逆向きで馬の尻に向かって乗ること。転じて、手違いから物事が逆になることを言う。人生、何事も前向きに進んでいるときは愉快であるが、二歩前進一歩後退という人生哲学があるが、後退には勇気と決断が必要ですね。

*直足の馬(ひたしのうま)
馬の足の運び方の並のものを言う。これに対して歩みの大まかなものを『おろしの馬』と言う。

2)馬の個体識別に関する日本の諺・言葉

*馬博労・馬伯楽(うまばくろう・うまはくらく):
 博労とは、伯楽から転じた言葉で、馬の善悪を鑑定する人、馬の病を治す人、馬の売買、斡旋(あっせん)をする人のことを言う。伯楽とは、中国古代の人で、馬を鑑定することが巧みであったと言われている者を言う。
 日本での馬伯楽は、近年では[相馬の神様]と言われた岩渕真之氏(いわぶち まさゆき)⇔皮膚が乾燥して、胸広く深く、関節強く体との釣り合いがあり、姿勢良く四枝真直ぐで、運歩軽快で動きよい馬、が理想的な競走馬とした。
 最近の馬博労は、福島の佐藤伝二氏、元JRA・元日本ウマ科学会会長の小川諄(おがわあつし)氏などがいる。

*下馬評(げばひょう):
もともとは主人が持っている馬の良し悪しを言い合っている様を言う。下馬評は野次馬にとってこれほど楽しいものはないが、馬の世界では、相馬にはオールマイテーの者はなく、競馬予想も下馬評が適中しないところに面白さがある。

3)馬の厩務員に関わる日本の諺・言葉

*馬飼部(うまかいべ):
 大和朝廷に仕えさせられた牧夫を[品部]と言い、大化の改新時代後も[馬飼部]で差別用語であった。江戸幕府時代は[馬方]、明治時代は[馬丁]、[車夫馬丁の類(たぐい)]などと最近まで続いていた。次いで、[牧夫]、最近は競馬人の階級差別は良くないと言うことで[厩務員]になった。英語では男の厩務員をラッド[lad]、女性を[lass]と呼び、最近ではグルーム[groom]と呼ぶ。

*馬手(めて):
馬の手綱を持つ手の意味で、右手のことを言う。騎射(きしゃ)の時、右手で獲物を射ることからの呼び名である。
『馬手差し(めてざし)』が右の腰に差す短刀のこと。
『馬手の袖(めてのそで)』は鎧(よろい)の右の方の袖のことを言う。
弓を持つ手が左手で弓手(ゆんで)であり、馬を操る綱を持つ手が馬手(右手)である。

4)馬の個体識別/毛色に関する日本の諺・言葉

*旋毛:
豹尾(ひょうび):馬の尾の上にある旋毛(つむじ)の呼称。
地方によっては旋毛の言い方が異なる⇔秋田では『まぎめっこ』、岐阜で『まきまき』、富山では『きじきじ』、香川では『ぎりぎり』などと呼ぶ。

*青馬・白馬(あおうま):
青馬は青毛の馬で青駒のことであるが、白馬もアオウマと呼び、神に献上する馬のことを言う。中国では青馬は年中の邪気をはらわれるという風習があり、日本では白馬を神聖視してアオウマと呼んでいる。大雨の時は青馬を献上し、雨乞いには白馬を献上した。

*芦毛雲雀(あしげひばり):
馬の毛色で、黄色と白色とが混じった芦毛のことを言う。芦毛は、原毛色が栗毛、鹿毛、青毛だから、同じ芦毛でも微妙に違うところがある。
日本のサラブレッドの毛色は鹿毛53%、栗毛21.6%、黒鹿毛14.5%、芦毛7.6%。産駒は、芦毛ⅹ芦毛=75%芦毛、芦毛ⅹ栗毛或は鹿毛=50%芦毛で生まれる。

左側:帯広市から金刀比羅宮に献上された神馬・月琴号。
右側:サバンナシマウマ:富士サファリパークにて。

*『毛を見て馬を相(そう)す』:
毛並みだけを見て馬の良否を判断することから、うわべだけで物事を判断することの早計をいましめるたとえ言葉である。
動物の良否の判断には、体の全体をみて行うのが一般的であるが、部分をみて全体を推し測る二通りの手段がある。
体の一部分で判断⇒部分的に立派な場合は、健康状態、群のなかでの優位性、能力などが優れていることが多いことから判断に一つになっている。

角;有角動物(アフリカ水牛や野生ウシ)。
蹄;有蹄類。
皮膚(毛づやと毛並み);毛皮動物。
鼻;長鼻類。
羽毛(光沢);鳥類。

*『虎斑(こはん)は見易く人斑(じんぱん)は見難し』:
虎の毛色・斑紋ははっきり見えるが、人の心は簡単には見分けられないことのたとえ。
縞はシマウマで、斑点はヒョウ、ジャガー、ウンピョウなどのネコ科動物⇒効果はカモフラージュである。多くの動物は、背側の色彩が濃く、腹側は淡い色⇒この効果は上からの光に対して、腹側の影をぼかし、体全体をぼかす効果がある。
シマウマの縞は、近くでは白と黒がはっきりしているが、遠くで群れている場合はその全体が灰色にかすみ目立たなくなる。

5)馬の個体識別/セリ・烙印に関する日本の諺・言葉

*馬揃え(うまそろえ):
軍馬を一箇所に集めて、その優劣を検分し、併せてその調教と演習を検閲して関係者の士気を鼓舞することを目的に行った。陸軍騎兵学校でも行われていた。
最近では、若馬のセリでの個体識別風景がある。上場前に馬を揃えて、購買者に個体の優劣を検分させている。騎乗供覧するトレーニングセール(2歳馬セール)などもある。
イギリスでは;ホートンセール、タタソールズセールなど。
アメリカでは;キーンランドセール、バレットセールなどの世界的なセールがある。
日本ではプレミアセール、セレクションセールがある。

*馬印・馬標・馬験(うまじるし):
馬印は、戦陣で大将の馬側に幟を立てて、その所在を示す目標としたものである。平安時代は武将の甲にも印を付けていた。
幟(のぼり)に馬印を染めて使うようになったのは、大正年間に始まる。
秀吉の[千生瓢箪(せんなりひょうたん)は果実が多く群がっている大群を意図した]。
家康の[開き扇(ひらきおおぎ)は末広がりの人生を意図した]など権力誇示の標識である。福島の[相馬野馬追い]では様々な家紋がついているが、外国では自国の国旗が多い。

2.馬の分類と品種について

①馬は、奇蹄目⇒ウマ科⇒ウマ属に分類される。他のウマ科動物には、モウコノウマ、ロバ、アフリカノロバ、アジアノロバ、サバンナシマウマ、グレビーシマウマ、ヤマシマウマがいる。
*馬科には、エクウス・カバルス、エクウス・アッシュヌス、エクウス・ヒポテイグリス(縞馬)がいる。馬のことをエクウスとも言う。
*現在の馬のほとんどは家畜化された家馬である。
*驢馬(ろば)は野生驢馬と家驢馬とが共存しているが、驢馬は本来的に全て野生である。

②奇蹄目のなかで肢軸が第3指を通るような方向に進化した有蹄類は馬の他にサイとバクがいる。

③体格に基づく分類;
*軽種(重種とポニー以外の馬で、大きくなく乗用に向く馬を言う)。
*重種(シャイヤー、サフォーク・パンチ、ペルシュロンなどの体格の大きな馬を言う)。

④馬の運動性からの分類;
*温血種(ドイツでは軽種に対応した馬を言う)と、冷血種(重種に相当)。
*イギリスでは温血種をサラブレッドとアラブだけに限定し、これらの品種で改良された馬を半血種と呼んでいる。
*純血種はアングロ・アラブ種、サラブレッド種、アラブ種を言う。

⑤ウマの骨格によって東洋種と西洋種に分類;ドイツのフランクによって1875年に提唱された呼称である。
*東洋種;骨格で頭蓋骨の発達が良いが顔面骨は発達悪く、体格は小さく、体高150cm前後、記憶力が良く、活発で速力速く、持久力に富む馬。代表的な馬は、アラブ、ペルシャ、バルブ種やロシヤ馬、ハンガリガルシャ馬、ギリシャ、ペルシャ、支那、日本の馬など。
*西洋種;頭が大きく重い、表情に乏しい。重鈍、皮膚厚い。代表的なウマは、多くは北ヨーロッパ産、オーストリアのピンツガワー、ベルギーのアルデンナー、ブラバンソン種など。

⑥ポニー;イギリスで体高148cm以下の馬を提唱したが、現在では目安の意味しかない。
*アメリカでは多用途に用いられる乗用馬を呼ぶ習慣がある。
*近年、アメリカン・ミニチュア・ホースは体高が85cm以下をいい、プロポーションから体の大小を問わずホース・タイプとポニー・タイプに分類することもある。

⑦歩法に基づく呼び方;
駆歩馬(ギャロップ、ランナーはサラブレッド、アラブ、クオーターホース)。
*速歩馬(トロッターはスタンダードブレッド)。
*常歩馬(ウオーキング・ホース、ウオーカーはテネシー・ウオーカーなどに分類。速歩馬を更に得意な歩法から斜対速歩馬(トロッター)、と側対速歩馬(パーサー)に分けている。

⑧用途別;
乗用馬(ライデング・ホース)、輓用馬(ドラフト・ホース)、
駄載用馬(パック・ホース)に分ける。

⑨我が国の一般的習慣として、軽種、中間種、重種、在来馬の4種類に分けている。

上側:奇蹄目のバクとサイ。 下側:奇蹄類の馬、バク、サイの指骨模式図:
1)現代の馬の直接の祖先

①北ヨーロッパの馬;山岳地帯で家畜化されたゲルマン馬。
②中ヨーロッパ馬;ケルト人によって家畜化され、ゲルマン人が広げ、今日の重種の祖先の馬。
③東ヨーロッパ馬の草原馬;南ロシヤの小型乗馬の祖先。
④イラン山岳馬;中近東の高原や砂漠一帯に生産された軽快な乗馬型。アラブ、バルブ、ペルシャ馬の祖先。
⑤蒙古草原馬;蒙古や東アジアの砂漠地帯や草原に住むで、背中に沿って鰻線(まんせん)がある。
⑥アメリカ馬;南ヨーロッパから渡米したポルトガル人によって移され野生化した馬。

左側:大沼公園の駒ヶ岳での長閑な馬の放牧場風景。右側:我が家の庭に咲く薔薇。
(1)草原タイプのエクウス・フエルス;

別名は草原馬。アジアから東ヨーロッパに分布。現在は殆ど見られない。腰椎は通常6個だが5個しかない。

(2)高原タイプのエクウス・グメリニ;

別名は高原馬あるいはタルパン。南ロシヤからコーカサス地方に生息、完全に全滅した馬。

(3)森林タイプのエクウス・アベリー;

別名は森林馬。大柄の馬、ヨーロッパ南部の温暖な土地の肥えた地方に棲息していた。家畜として改良が最も成功した馬である。

馬の主な品種の原産地図:
2)馬の種類:現在 250種以上のウマがいる。

現在の馬 はイエウマ、 学名エクウス・カバルスという。

3)ウマの分類学上の位置づけ;

門;脊椎動物(vertebrata)
 網;哺乳動物(mammalian)
  亜網;有胎盤哺乳類(placentalia)
   目;有蹄類(ungulata)
    亜目;奇蹄類(perissodactyla)
     科;馬科(equidae;ウマ、サイ、バクの3科存在)
      属;馬(equus;正しい日本名は イエウマ)
       種;馬(equus caballus L.)
*種とは;生物を分類する上での基礎単位で、属の下に位置づけられる。
*品種とは;品物の種類に相当する。
ウマの品種は、少なくとも50数種で、人によっては110種を挙げる。

4)種の定義:

「同じ種に属するものは互いに生殖・繁殖可能で、しかもその間から生まれた子が生殖力を持つこと」である。

*ロバは馬科の動物で、一般の馬との間に雑種をつくることが出来る馬でいろんな品種がいる。(例えば);以下のラバ、ロバ、ケッテイは馬属に属するウマ以外の家畜とされている。

*ラバは一般の馬の♀とロバの♂との間にできた生殖能力のない一代限りの雑種であるため学術的には馬科の品種には入らない。すなわち、ロバの♂×♀のイエウマ=ラバ(騾馬;equus mulusは生殖・繁殖能力がないため、ロバと イエウマは 同種でないことになる)という。しかし一代雑種ラバは、粗食に耐え、よく働くので重宝されている。

*反対の雌ロバと雄イエウマとの一代雑種はケッテイ(駃騠;equus hinnus)と言い奇数染色体63本なために繁殖能力がない。

*因みに、ロバ(驢馬;equus asinus)は、アジアノロバとアフリカノロバに分けられる。

アジアノロバ(染色体数54)にはチベットロバとモウコノロバの2種がいて、頭が大きく耳が長く、蹄が高い。

アフリカノロバは、アビシニヤロバとヌビヤノロバの2種がいて、北アフリカの低温な荒廃地に生息している。

チュウリップの雄しべと雌しべ:花の世界でも多くの品種がつくられている。
5)亜種または変種とは;

①種が同じでも幾世代かを経て、他と判然と区別のできる外形・体型や形質を持ち、遺伝的に固定したと考えられるものを言う。
②品種(ブリ-ド);人為的に雄と雌を選抜し、数十世代を繰り返し→それまで持たなかった形質を新たに収得するか、あるいは既得の形質を更に強大なものにし、しかもそれが子孫に遺伝するようになったものを言う。
③亜種;種の下に位置され、同一種の中で、ある集団が他の集団と一定の差をもつときに用いられる。
④変種;生物分類学上で亜種の下におく単位の一つで、同一種の生物で形態的・生態的に二つ以上の点で異なり、また分布地域を異にするものを言う。
⑤奇蹄亜目;進化の流れの中では衰退しつつある動物グループであるとされている。その原因としては、草食動物との競合に敗れたのではなく、むしろ地球の気候変化への対応にあるとされている。

次回は、馬の歴史・移動(北米の馬発祥地からの流れ)、野生馬からの家畜化、世界の主な馬の品種と特徴、そして日本の在来馬などについて述べる予定。

=やさしい馬学講座Ⅱ=

1.ウマの歴史(人間とのかかわり合いの歴史):

*馬の歴史を考える時、人間との関り合いの歴史を考えたほうが解かり易い。それは人間と生活を共有してきた動物であることから。

いろんな地域に分散して過ごしていた野生馬をその地域の人間が家畜化から家畜として活用したことにある。当初は農耕用に、次第に馬の優れた能力と体型等を人間が見極め、乗用としての乗馬や戦争用に、牽引用や競走用にと幅広く利活用することになった。こんな馬達の歴史から馬の品種や日本の在来馬等について学んでみようではありませんか!!

*《家畜化とは 》;人間と他の動物がなんらかの共生生活を行うようになる過程をいう。ウマの家畜化は、約5,000年前のムギ作農耕文化圏から進展しています。東ヨーロッパのステップ地帯においてタルパン(Equus Caballus gmelini)という野生ウマから家畜化されたと言われています。

*《家畜(domestic animals)とは》;人間に馴れ(テイミング)、しかも人間と生活空間を共有する動物を言います。

1).馬の家畜化

①ウマの家畜化はイヌ、ウシ、ヒツジ、ブタよりかなり遅れ、紀元前5,000年頃(新石器時代)家畜化されている。

②馬は、ヨーロッパ東南部のウクライナ地方・ソ連東部のカザックスタン地方・アジア西部のトルキスタン地方の草原地帯で初めて家畜化されている。

③紀元前 2,000年頃(青銅器時代):
*中央アジアの騎馬民族がウマに乗って西方(エジプト)へ進出した時代。
*エジプト人は紀元前1,500年頃にウマによる鉄製の戦車*で戦争をしている。
*ギリシャ人が「足なくして馬なし」の格言を残したのはこの頃である。 
*ウマがローマへ持ち込まれ、ローマ人が神殿の広場で戦車の競走や競馬を行なっている。

④紀元前 55年頃シーザーがウマを用いて東方からイギリスへ侵入している。

*馬車について:
馬車は、紀元前2,000年頃には西アジアで馬の導入後に使用され⇒エジプトやローマでは戦車として利用されていた。
日本は索引獣としては牛が中心で、馬はもっぱら乗用馬として使われていた。
平安末期以降は、⇒街道が整備された江戸時代になっても牛車主体で、馬は騎馬や駄馬に使用されていた。
開国後に最初に馬車が利用されたのは、郵便馬車や乗合馬車だと言われている。レールの上に客車を走らせる鉄道馬車が明治15年頃に東京馬車鉄道会社により新橋~上野・浅草で運行開始、その後全国に広がっていった。

2).牧畜文化圏と馬の利用

各家畜は、遺跡や壁画からも分かる様に以下の7つの牧畜文化圏を根源として、牧畜が世界へ広がっていった。牧畜は、特定の地域と動物で構成されているのが特徴である。

①北極周辺のツンドラ地域;
トナカイ牧畜(7,000年前から家畜化)。

②中央アジアのステップ地方;
ウマを主体とし、ウシ・ヤギ・ヒツジによる牧畜。ウマがヒトに馴化されて家畜となったのは青銅器時代(紀元前2,500年)に入ってからのアーリア人で、中央アジアの高原地帯からメソポタミヤの肥沃な平原地帯に移動した時にウマを伴っていたとも言われている。

③チベットの高山地帯;
ヤクでの牧畜。

④地中海からアフガニスタンの山岳地帯;
ヒツジとヤギによる牧畜。

⑤砂漠とオアシス地域;
ラクダによる牧畜(5,000年前に家畜化)。

⑥アフリカのサバンナ;
ウシを主体にヤギ・ヒツジによる牧畜。

⑦南アメリカ・アンデス地方;
ラマ・アルパカによる牧畜(約7,000年前に家畜化)。

⑧人間がウマを利用したのは;
最初は物を引くことから始まった⇒次いで騎乗⇒戦争に使用⇒勝利を得た。           
*「歴史は馬によってつくられてきた」ともいえる。
*「馬の背は国をつくる」という中国の格言もある。

北米からの馬の移動経路図:馬は始新世に北米のワイオミング地方で誕生し、氷河期にベーリング地峡から移動。気候風土に適応し大型化し、草原馬、高原馬、森林馬タイプに分かれた。
3)馬の移動の流れ

①ウマは中央アジアから世界へ広がっていった⇒その流れは3方向に分かれた。

*東方へ移動→チベットの野生のポニー位いのプルツバルスキー馬(equus  caballus przewalski)がこの代表とされ、中国や蒙古の馬(equus ferus)となり、日本へ渡ってきたもので、草原型(steppe form)のウマの系統。
*西方へ移動→体格が大型でおそらく今日の重種馬の祖先で、ヨーロッパに入って、大動物群となったもので森林型(wood form)の馬の系統。家畜馬としてはベルギー馬がその代表的なものであろう。
*南方へ移動→約150年前(1879年)に絶滅したタルパン(tarpan)が代表的な野生形態であろうとされ、今日ではequus caballus gmeliniと学名が与えられ、家畜馬で代表されるアラブ馬の系統が本流とされている。アラビア、イラン、インドなどへ広がったもので、高原型(plateau form)の馬の系統。

4)日本に馬の渡った経路(2説ある)

①古代アイヌ人が大陸から持ってきたとする説。日本とアジア大陸と陸続きであった時代-シベリヤ、沿海州から→北海道に入り→それが東北・関東・中部地方へ南下。

②朝鮮半島からモウコノ馬の系統が九州方面に渡ってきたとする説。

③現在は染色体数やミトコンドリアDNA遺伝子等の分析から朝鮮半島から九州の経路が支持されている。

2.馬の主な品種と原産、沿革、特徴について:

注:写真の多くは『馬の品種図鑑』日本中央競馬会 岡部利雄監修1968 に掲載されている内容とアトラス図を主体に教材用として取り込んでいることを明記します。なお、この図の原著はドイツ、ベルリンのエドワルド・エッゲブレクト工芸出版(発刊年次不明)である。

左図(アメリカン・トロッター種):原産地:アメリカ。沿革:南部のヴァージニア州、カロライナ州で18世紀初めから速歩繋駕競走が行われ、そのための速歩馬を生産。ロードアイランドではとくにペーサーの生産が盛ん。アメリカン・トロッター種は、速歩能力を主眼にサラブレッド種で改良された品種。特徴:トロッターとペーサーを総称してスタンダード・ブレッドという。
右図(アラビヤ馬):沿革:血統の明確な馬群と、やや劣る2つの階級がある。従って、系統は無数にある。体高145~155cm、小型であるが貴品があり、美しさと均整のとれた体型は乗用馬の代表とされ、いろいろな品種の改良に貢献。
左図(アングロ・アラブ種):原産地:フランス。沿革:18世紀に設立されたポンパドール牧場で、アラブ純血種とイギリス純血種との交配が行われ、1843年には、計画的な生産が始められ、以来、この牧場がアングロ・アラブ種生産の中心となっている。優秀な騎兵乗馬生産のために行われた。特徴:貴品に富み、歩様軽快な乗用馬。体高155~160cm。
右図(アングロ・ノルマン種):原産地:フランス、ノルマンデイ地方。沿革:昔のノルマンデイ公の領地に産する馬をアングロ・ノルマン種と総称した。3種に区分。
トレー;体型はペルシュロン種と全く同様で重輓馬として使役。
ポスチェ;歩様の軽快さ、小格馬(体高140~145cm)。一般にビデーと呼ばれる。乗馬と輓曳の兼用馬として行商や長途旅行家に歓迎。
アトラージュ;いわゆるノルマンデー馬。原産馬にスペイン馬、アラブ種やサラブレッド種などが交配されていろいろなタイプの馬が出来上がった。
用役別体型から更に4種(カロッシェ、セル、コブ、トロッツール)に区分される。
左図(アンダルシャ馬):原産地:スペイン、アンダルシャ地方。沿革:オーストリーのリピッツアー種はアンダルシャ馬の系統をひいている。特徴:乗用馬として有名。輓曳馬としても有能。記憶力豊か、しかも従順で、曲馬用や馬術用馬として珍重される。体高150~160cm。
右図(イギリス純血種):原産地:イギリス。沿革:イギリスはすでに1226年に競馬が行われていた。イギリス産ハンターを中心とする競走馬に東洋から輸入したアラブ系統馬によって改良がすすめられ、サラブレッド種(イギリス純血種)が完成。サラブレッドという言葉は1806年のスポーテーイング・マガジンに掲載されたのが初め。品種の父系の血統;ダーレー・アラビア(エクリップス号はサラブレッド種完成の基礎種雄馬として有名)、ゴドルフイン・アラビアン、バイヤリー・ターク。特徴:もっぱら競走馬として改良、最も洗練された品種。体高160cm内外、体重500kg前後。
左図(サフォーク種):原産地:イギリス、サフォーク州。沿革:品種の起源は不明な点が多い。サフォーク州東部の在来馬にノルマンヂーの雄馬が交配されて200年前に確立。特徴:サフォーク・パンチと呼ばれる重系輓用馬。主として農耕馬として使役されている。体高166~177cm。体質は強健で持久力に富み、作業意欲旺盛。重種にしては運動軽快、少量の飼料で十分飼養。
右図(シャイヤー種): 原産地:イギリス。沿革:ヨロイを着た騎士が乗馬して、戦場をかけまわるに十分な大きさと力を持つ。軍馬として改良。特徴:体高170cm程度、体重900kg以上。
左図(トラケーネン種):原産地:ドイツ;トラケーネン種馬牧場。沿革:トラケーネン種の改良の歴史と国立トラケーネン種馬牧場の歴史との密接な関係で出来上がっている馬。特徴:半血種のなかで最もサラブレッド種に類似、抵抗力強く、骨と関節丈夫、筋肉発達、運動は弾力性に富む、体高160cm程度、騎兵乗馬に最適。軽輓用にも適応。東プロシャ馬の代表格の品種。
右図(トルコ馬):原産地:トルコ。沿革:アジア・トルコはアラブ種の原産地といえるが、ヨーロッパ・トルコは元来豊富な馬資源を保有していながら、外国に輸出してしまい、逆に外国から輸入している。1730年頃からトルコ馬の改良を試みているが成果は?。特徴:体型、素質はアラブ馬に類似する。乗用馬、軽輓用馬として使役。
左図(トルコマン種):原産地:アジアロシア、トルキスタン。沿革:ロシア馬の多くは草原馬の系統で、軽快な東洋種に属する。トルコマン種はアジア馬の中で最高の駿馬とされている。起源はアラブ種とペルシャ馬の混血といわれ、アレキサンダー大王の時代には、この馬の存在が記録されている。特徴:体高153~163cm、乗用馬、ペルシャ馬やアラブ種より、むしろサラブレッド種に類した体形。粗食に耐え、喝に対する抵抗力は強い。歩様は軽快で速度も速い。
右図(ノールウェー馬):原産地:ノールウエー。沿革:フィヨールド馬はノールウエー在来馬にデンマーク馬、メクレンブルグ種、イギリス純血種、ノーフォーク種、アルデンナー種など、いろいろな血液が交配されて、18世紀に出来あがったものである。その起源は有史以前にさかのぼり、現在の貴重な西洋種の祖先と考えられている。特徴:*フィヨールド馬;フィヨールド地方産馬で体高133cm以下の小格馬。貴種化された馬は体高144㎝程度。
左図(ハーフリンガー種): 原産地:オーストリー、チロル地方。沿革:チロル地方の山地の原産馬で、1340年頃からピンツガウワー、アラブの血液が入って出来あがった馬。名はハーフリンガー高原からとられている。特徴:体高145~155cm、小型の山岳駄馬として定評がある。歩様は落ち着きがあり、粗食に耐え、持久力に富み、作業意欲旺盛、山道の歩行が安全確実。
右図(ハクニー種):原産地:イギリス、ノーフォーク州。沿革:ノーフォーク・トロッターから由来したもので、1883年に協会が設立され生産資源が確保されている。特徴:高踏歩様による常歩と速歩のみを行う、乗馬車用輓馬として独特の地位を占める品種。体高155~160cm。
左図(バルブ種):原産地:アフリカ北部及び北西部。沿革:スペイン系の馬に由来すると思われる。アラブ種の血液を混じて現在に至る。産地によりいろいろ分類されている。
右図(ハンガリー馬):原産地:ハンガリー。沿革:在来馬とユッカー馬がいる。
特徴:ハンガリー在来馬;体高125~150cm。小柄だが理想的な軍馬あるいは遊覧用馬。ユッカー馬;軽輓曳用馬。体高155~160cm。歩様は高く、活発であるが、速度と持久力に優れている。
左図(ハンター種):原産地:イギリス。沿革:ハンター種に用いられる種雄馬は、もっぱらサラブレッド系統の馬。特徴:ハンターは品種名でなく用役名で、ハンテングに用いられる馬の総称である。一般に額は広く、腹は引き締まり、肩は十分に傾斜、上腕と前腕は充実、関節は丈夫、管は短く、繋ぎは傾斜し、蹄形は良い。気性は活発、駆歩が軽快、優れた飛越力を持つ。
右図(ハンノーバー種):原産地:ドイツ、ハンノーバー州。沿革:18世紀以来、英国貴族が英国系馬を持ち込み、葦・芦毛はハンオーバー王朝の紋章馬として系統的に生産。体高160~164cm、貴相があり、儀式馬車用輓馬として使役される。
左図(ピンツガウアー種): 原産地:オーストリー;ドナウランド。沿革:原始タイプの馬に軽いスペイン系とナポリ系雄馬が交配されて生まれた。重、中、軽の3系統があり、ピンツガウアー種は重系に属する。特徴:野生馬の系統をひくノーリッシュ馬の血を純粋に受け継いだ品種。体高165~170cm、性質は温順で持久力あり、特に気候に対する抵抗力が強い。
右図(ブーロンネー種):原産地:フランス、ブーローニュ地方。沿革:18世紀末までは、軽い乗馬として使役されていたが、この地方の肥沃で石灰分が多く、農作業に重格馬の必要性から今日のような重輓馬に改良された。特徴:運動性に富み、抵抗力が強く、大型と小型に区別され、162~172cm、150~160cm。
左図(ブルトン種): 原産地:フランス、ブルターニュ地方。沿革:ブーロンネー種、ペルシュロン種と並び称されるフランス産重種馬の代表馬。品種の起源は明らかでない。1212年頃から、アラブ種、ハックニー種、メタレングルグ種、デンマーク種、ホルスタイン種などが種牡馬として輸入、混交、改良されてきた。特徴:生産地により3群(重格ブルトン、軽格ブルトン、小格ブルトン)に区別。一般に、筋肉発達、骨硬く、体質強健、持久力に富む。
右図(ペルシュロン種):原産地:フランス、ペルシュ地方。沿革:もともと、中程度の大きさで、体のつくりは頑丈で、持久力と耐久力に富む馬。長距離貨物輸送、郵便馬車、乗り合い馬車などで活躍、一方、重乗馬、軽重用馬としても広く使役。特徴:大型と小型に区別。小型はペルシュロン・ボスチェと呼ばれ、体高155~160cm、大型は体高160~165cm。性質は温順で重作業に適するが、やや鈍重。
左図(ポニー):沿革:一般に島嶼(とうしょ)産の馬はポニーに属する。ポニーが計画的に改良、生産されているのはイギリスで、シェットランド、ハイランド、ウエルス、ニューフオレスト・ポニーなど、産地別の分類がある。また、用役別による・ポニー、ハンター・ポニー、ウエルス・コップなどと呼ばれる分類もある。原産地:小型の馬をポニーと総称する。厳密な定義はないが大よそ体高150cm以下。
右図(リピッツアー種):原産地:オーストリー;国立リピッツアー牧場。沿革:東洋種とピレネー半島の重種系在来馬とが交配されたスペイン馬が起源と考えられ、これに北部イタリア、ドイツ、デンマークからの輸入種牡馬によって改良。特徴:体高157~167cm、体質は強健で、持久力に富み、骨疾患殆ど無し、性質は従順、乗馬や軽輓馬として使役。葦・芦毛を主とする。
左図(野生馬;エクウス・プルツェワルスキー)・右図(多摩動物公園のモウコノウマ):原産地:中央アジア。沿革:いわゆるエクウス・フェルス『草原馬』に分類されるのがプルツェワで、エクウス・グメリニ『高原馬』はタルパンの名で知られている。馬の原始型にはこのほかにエクウス・アベリー『森林馬』がある。この種の野生馬は1880年で絶滅しており、現在の地球上に棲息する馬は何れも家馬である。特徴:小型で、頭は比較的大きく、兎頭、耳短く尖って、眼小さく陰険である。頸短く、鬐甲低く、背は真っ直ぐ、胸は発達。尻は斜尻、四肢長く、乾燥し、筋肉発達、蹄硬い、前髪少ない、タテガミ短く起つ、尾毛短い、毛色は灰色か河原毛、鰻線(まんせん)あり。ハーレムをつくる。
3.日本の馬

①日本でのウマの家畜化は、大漢和辞典を調べてみれば理解できるように、馬編538字、牛編320字、羊編195字と馬編が多いことからも、ウマは古くから日本人の生活との係わり合いの強い動物・家畜であることが伺える。

②日本人がウマと初めて出会ったのは有史以前であるとされている。日本のウマはウマの遺物や文化的遺産などから紀元前200年頃、シベリヤ方面の民族から朝鮮半島を経てきたタルパン系のウマが、初めから乗用馬として入ってきた家畜馬・家馬と考えられている。以後、室町時代以来しばしば蒙古の馬やアラビアの馬が輸入され、明治時代にはヨーロッパから大型の西洋馬が輸入され在来馬が改良されてきた。現在の日本では、在来馬8種と、サラブレッド主体のウマに変貌している。

1)日本の在来馬(約2,600頭)

日本の馬の頭数:
農用馬;約20,000頭 。軽種馬;約60,000頭。乗用馬;約12,600頭。肥育馬;約8,700頭。
合計;約104,000頭(2001年調査)

(1)北海道和種馬(ドサンコ):

群を抜く強健性 (耐寒性と持久力)。粗飼料に耐え、その利用性が高い馬。冬期は笹(ミヤコザサ) を主食とする。駄載に極めて好適な体型と造をもつ。側対歩で歩く。ホーストレッキング(ドサンコ の背に股がり林道を歩く)に好適。毛色に多様性あり(粕毛が約60%を占める)。北海道和種馬保存協会の発足。
体高;132.57cm、体長133.55cm。
総数 1,950頭(H.13)

左図:ドサンコのハーレム。ドサンコ牧場にて。
右図:25年度北海道和種馬共進会で最高位受賞馬:全公獣協 上田 毅氏提供。
(2)木曽馬

長野県:旧中仙道(美濃の丘陵~木曽川に沿う)を中心に飼われている。
安閑天皇治世の2年(535年) の「和漢三才図絵」に記述あり、この中の霧原牧の馬が起源か。体高130-140cm。モウコノ馬の系統を引くと考えられる中型馬。
関節が丈夫で四肢が短く、胴長で腹囲大きく、消化器の容量が大きい。粗食に
耐える。蹄が堅い。木材の運搬などの力仕事に従事。強健で持久力が強い、温
順である。長野県天然記念物指定。総数;127頭(H.13)。

左側:木曽馬。 右側:木曽馬の里の馬達(全公獣協・上田 毅氏提供)。
(3)野間馬

*愛媛県今治市郊外の乃万地方で飼われている小型馬。
*急傾斜地の駄載用や農耕用として活躍。
体高;♂109.7cm 、♀112.1cm 。
毛色;多様。今治市文化財指定(昭和63年)。 総数;77頭(H.13)。

左図:野間馬。 右側:乗馬として活躍する馬達(全公獣協・上田 毅氏提供)。
(4)対州馬

*長崎県対州島(たいしゅうとう)に飼育。古墳期の白岳遺跡から馬具銅器の出土。
昭和4年に3,000頭いた (改良のためアングロ・アラブとの雑種となる)。
体高;125-127cm 。毛色;青毛と鹿毛。頭部が比較的大きい。前駆に比べ後駆は低い(斜尻、尾付が低い)。たてがみと尾は長毛で豊か。
*傾斜地の耕作、原木運びの作業。
 坂道の上り、下りに適す。蹄は堅牢。カヤ・クズ等の野草を主食(強力な消化器を持つ)。
総数;34頭(H.13)。

左図:対州馬(保呂ダム馬事公苑にて。全公獣協・上田 毅氏提供)。
右図:あそうベイパーク放牧場の木曽馬(全公獣協・上田 毅氏提供)。
(5)御崎馬「都井の野生馬」

*1697年 (元禄10年) に御崎牧 (宮崎県) を開設。
*種牡馬1 頭に繁殖雌馬約30頭の割合で自然繁殖。
*粗食に強く、蹄は硬い。
*小回りが利く(ダク足のため狭い畑の耕作や駄載用)。
*夏は草地で夜型採食、冬は林地で昼型採食行動(運動量を減少させるため)。
*ハーレムをつくる。
*天然記念物に指定(S.28) 。
総数;117頭(H.13)。

左図:御崎馬。右図:御崎馬の親子。(全公獣協・上田 毅氏提供)
(6)トカラ馬

*鹿児島県トカラ列島に住む。明治30年(1899)鹿児島県の喜界島から導入。
体高;♀114.5cm 、♂114.9cm。額や四肢下端に白徴がない、黒鹿毛や栃栗毛が多い。たてがみ長く、頭は大きく、頸は水平、円尻か短斜尻。四肢細く、外向き、X状肢勢、蹄堅牢。温順、耐暑性に富む。
用途は、島の農耕、堆肥、駄載、サトウキビの製造。
*県文化財として天然記念物に指定(S.28)。 総数;121頭(H.13)。

左図:トカラ馬。右図:放牧中のトカラ馬達。(全公獣協・上田 毅氏提供)
(7)宮古馬

 このウマの日本への伝来は中国の四川馬がルーツとする南方説と雲南省起源説のタイ在来馬の北方説がある。
体高;♀120cm 、♂122cm の小型馬。温順・粗食と重労働に耐える・駄載用。
*頭部重く厚く肥大・頸は太く厚い・肩部は短く、やや直立し、助張りあり。腰部は短く・後躯やや貧。肢は少し立ち気味・蹄質硬い。
*沖縄県指定の天然記念物(H.2)。総数 19頭(H.13)。

左右図:宮古馬。(全公獣協・上田 毅氏提供)
(8)与那国馬

 ルーツは沖縄島から島伝いに南下した馬(宮古馬と同一の祖先)。
*温順・粗食と重労働に耐え、耐久力あり・小型馬。体高;♀116cm 、♂121cm。頭部大きく・頸厚くない・胴の伸びはない。腰部短い・後躯やや貧弱・斜尻。飛節は折り目深く、やや弓状・繋は短い。蹄は外向き、立ち気味で質硬い。歩様は左右が交差状。駄載用・運搬用・乗用。総数 106 頭(H.13)。

左右図:与那国馬。(全公獣協 上田 毅氏提供)

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅲ=

=馬の馬体部位名称と特徴=

馬体の名称や特徴を知っておくことは、各個体の鑑別・識別や病気・疾患部位の発見・説明、健康な馬づくり等に大変役立つことになる。また、他府県への移動や入厩検疫の際などには、馬体の特徴、名号、生年月日等と共に各種予防注射・検査、薬浴、投薬が証明・記載された健康手帳の携行・提示が必要となる。
*注:以下に記載した毛色、顔の白斑、四肢の白斑図等は、教材用として競走馬2008年特集号(日本中央競馬会馬事部発行)から抜粋したことを明記します。

1.馬体の名称
(1)馬体の大まかな区分名称:

①前躯とは:頭、頸、肩、胸、前肢の部分を言う。
②中躯とは:背、腰、肋(あばら)、ひばら、腹を含めて言う。
③後躯とは:腰角、尻、股、後肢を言う。

馬体の部位名:
1.鬃髪(まえがみ) 2.額(ひたい) 3.眼盂(がんう) 4.鼻梁(びりょう) 5.鼻端(びたん)6.鼻孔(びこう) 7.上唇(じょうしん) 8.下唇(かしん) 9.顎(あご) 10.頬(ほほ) 11.咽喉(いんこう) 12.耳下(みみした) 13.頸(くび) 14.頸溝(けいこう) 15.肩(かた)
16.肩端(けんたん) 17.胸前(むなまえ) 18.上腕(じょうわん) 19.肘(ひじ) 20.前腕(ぜんわん)21.附蝉・夜目(ふぜん・よめ) 22.前膝・腕節(まえひざ・わんせつ) 23.管(かん) 24.球節(きゅうせつ) 25.繋(つなぎ) 30.股・大腿部(また・だいたいぶ) 26.蹄冠(ていかん) 27.蹄(てい) 28.臀端(でんたん) 29.臀(でん)  31.後膝(あとひざ) 32.脛・下腿部(すね・かたいぶ) 33.飛端(ひたん) 34.飛節(ひせつ) 35.項(うなじ)
36.鬣(たてがみ) 37.鬐甲(きこう) 38.背(せ) 39.腰(こし) 40.腰角(ようかく)41.尻(しり) 42.尾根(びこん) 43.帯径(おびみち) 44.肋(ろく) 45.腹(はら) 46.膁(ひばら)47.距毛(きょもう)48.附蝉・夜目(ふぜん・よめ)。
2.馬の個体識別に用いられる記載用語と施毛(せんもう)
(1)馬の個体識別に用いられる用語

①個体識別には昔から毛色と特徴によって行われている。
②一定のルールに基づいて呼称を決めている。
③(財)日本軽種馬登録協会が登録事業を行っている。
④最近は競走馬の登録にバーコードが入力されたチップ(頸部の皮下組織に埋め込む)を用いている。

(2)用語の特徴

①先天的に備わっているもの;
*白斑(主として頭部や四肢下脚部の白い模様)。
*旋毛(人間のつむじと同様で生まれながらに存在し、生涯増減や位置の変
動はない)。
*刺毛(白斑までに至らない少数の白毛のこと)。
*異毛班(白斑以外に生まれながらにして局所的に明瞭に生えている白い毛)
②後天的に生じたもの;
*損徴(傷痕などが明瞭にのこっているもの)。
*入墨、烙印。

(3)毛色

①被毛:馬体の全身の短い毛。早春と晩秋の年2回抜け換わる。
②長毛:まえがみ、たてがみ、尾の毛。
③原毛色:基礎になっている毛の色は7色である(栗毛、栃栗毛、鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、芦毛)。その他にも種々の毛色がある。

左側:基礎毛色:栗毛(くりけ)、栃(とち)栗毛(くりけ)、鹿毛(かげ)。   右側:毛色:黒鹿毛(くろかげ)、青(あお)鹿毛(かげ)、青毛(あおげ)、葦毛(あしげ)。
(4)顔の白斑による特徴:
左側から星、大星、小星、曲星、環星、乱星。
左側から環大流星鼻梁刺毛と鼻梁大白鼻梁刺毛と鼻小白、環大流星と環鼻梁大白鼻白、曲大流星、乱大流星、流星、大流星、小流星。
左側から流星鼻梁白、大流星鼻梁白、鼻梁鼻白、流星鼻梁小白。流星鼻梁鼻白、流星鼻梁鼻白、作、大作、白面(顔面の半分以上または巾が両眼に及ぶものがいる)。
左側から流星鼻梁大白鼻梁鼻白、大流星鼻梁白鼻大白、大流星鼻梁鼻大白、流星鼻梁鼻大白上唇大白、大流星鼻梁白鼻梁大白鼻白。流星断鼻梁鼻白、流星断鼻梁白鼻大白、流星・鼻白、曲大流星鼻梁白断鼻白、流星断鼻梁白断鼻白。
(5)四肢の白斑による特徴:白斑の記載は左前、右前、左後、右後の順に記載すること。
左側から微白(蹄冠部白斑で拇指頭大)、小白(蹄冠部の半周に及ばない白斑)、半白(肢下部の白斑で蹄冠部より管の半ばに達しないでしかも巾は球節以下の全周に達しないもの)。       
白(球節以下で全周に及ぶ箇所のあるもの)。
左側から長白:肢下部の白班で蹄冠部より管の半ば以上に達し、巾は管の中央部及び球節以下において、肢の全周に及ぶ箇所にあるもの。細長白:蹄冠部より管の半ば以上に達し、巾は管の中央部では肢の全周に及ばないが、球節以下で全周に及ぶ箇所があるもの。細長白の例:左:長白にもとれる細長白。右:一白にもとれる細長白。長半白:蹄冠部より管の半ば以上に達し、巾は肢のいずれの部位においても全周に及ばないもの。
(6)施毛(せんもう):人間で言う巻毛のことで部位により呼称が変わる。
左側:頭部と臀部の旋毛の名称。 右側:胸前と側面の旋毛の名称。

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅳ=

Ⅰ.=馬体の測定について=

 馬体の測定は、客観的な馬の成長度合い、あるいは馬の能力や怪我の発症を推測し判断するための参考資料に利用されることが多い。

その主な目的は:
①セリ前に行う測定は、外貌による購買者への主観による判断の補正、または修正のための補助手段として行われている。
②日齢ごとの発育標準値に補正して客観的に前回測定時の比較検討資料とするために行われている。

1.馬体の測定部位と器具
1)測定部位:
左図:測定部位;№部位を測定し記録しておく。
1.体高 2.背高 3.尻高 4.体長 5.胸深 6.頭長 7.肩長 8.上腕長 9.前腕長 10.前管長 11.尻長 12.大腿(股)長 13.下腿長(脛) 14.後管長 15.胸長 16.胸囲 17.前腕囲 18.前管囲 19.脛囲 20.後管囲 21.胸幅 22.腰幅 23.尻幅 
*肢長の計測は体高-胸深で計算する。
右図:雪の中を疾走する重種の若馬達;家畜改良センター十勝牧場にて撮影。菅野政治氏提供。
(1)主な測定部位:上図のナンバー部位に準じて測定する。

①体高、胸囲、管囲。
②尻高、体長、胸深、胸巾、腰巾、尻巾、尻長など。

(2)測定器具:特定の器具を用いて測定を行う。

①桿尺(かんじゃく):体高、尻高、体長、胸深の測定に用いる。
②キャリバー:胸巾、腰巾、尻巾の測定に用いる。
③巻尺:胸囲、管囲の測定に用いる。
③馬衡器(ばこうき):体重測定に用いる。

(3)測定方法:測定部位により測定器具を変えて行うこと。

①桿尺(人間の身長計測用の器具に類似している)での測定
*体高;鬐甲(きこう)の頂点から地面までの距離。
*尻高;尻の最高部から地面までの垂直距離。
*体長;胸前最前端から臀端までの距離。
*斜体長;胸骨前端と坐骨結節間の距離。
*胸深;鬐甲の頂点から胸郭下縁までの垂直距離。

②キャリパーでの測定
*胸巾;左右肩端間の最大水平距離。
*腰巾;左右腰角間の最大水平距離。
*尻幅;左右大腿骨前大転子間の水平距離。

③巻尺での測定
*胸囲;鬐甲の後端を通って、胴を垂直に切るように胸郭の周りを測る。
*管囲;左前肢の管の中央を骨軸と垂直になるように硬く締めて周囲を測る。

Ⅱ.=相馬について=

①馬の世界では、一般に測尺値を基に相馬(コンフォメーションとも言う)を加味して馬の能力、特に馬の将来性・活躍を推測することを相馬と言う。

②相馬とは外貌からの骨格構造、身体部分の長さ、大きさ、形状のバランス等から効率の良い歩法や走法の可能性を知ることを主たる目的としている。

③外貌からの馬体検査には手順にそって観察するが、欠点よりも長所を探すことに心掛けることが重要であり、特に若馬の1歳馬は今後の成長・能力を見極めて評価することが大切である。

1)検査手順

*検査には馬を静止させての検査(駐立検査)と歩かせる歩様検査がある。

(1)駐立検査

*検査者は駐立した馬体の左側面からの印象を確りと眼にやきつける。
*前方からの肢軸の観察。
*右側面からの左側面との印象比較を行う。
*後方からの肢軸の観察。
*左側面から最終確認。

(2)歩様検査

①検査者は10mほど離れ常歩で直進、次いで右回りに小さく回転して検査者に真っ直ぐに向かわせる。
②①の行為を確認検査のために2回行う。

図:サラブレッドのバランスとプロポーションの検査手順。
図:馬体の前後のバランス観察。
図:上下のバランス観察。
上図:胸の深さと背の長さのバランス観察。
図:頭長を基点に頚長と四肢長とのバランス観察。
図:肩の傾斜と繋の傾斜角度のバランス観察。
下図:背の凹凸と尻の傾斜のバランス観察。
図:後肢の不正肢勢と飛節。
6)後肢の関節角度と肢勢の欠点について

①飛節:馬には十分な幅のある飛節が必要である。

②窄飛(さくひ):幅の無い飛節で、飛節から管部に移行する部位が急に細くなっている状態⇔腱や靭帯の発育不良による。

③曲飛(きょくひ):飛節の角度が小さい⇔飛節後面に負担が大きい⇔飛節後腫を発症しやすい。

④脛骨が長く、臀端から下ろした垂線よりも後踏み肢勢をとる折れの深い飛節⇔動きに無駄が多く疲れやすい。

⑤直飛(ちょくひ):飛節の角度が大きい⇔足根骨に負担、膝蓋骨の上方固定(いわゆる膝蓋脱臼)を発症しやすい。

⑥後肢のX状(えっくすじょう)肢勢:飛節の内側に負担⇔疲れやすい⇔外向肢勢を伴うことが多い⇒交突や飛節内腫や軟腫、後腫の発症に注意。

⑦0状(おおじょう)肢勢:飛節の外側に負担⇔疲れやすい⇔狭踏肢勢を伴うと十分な踏み込みが出来ない⇒飛節内腫や軟腫および後腫に注意。

上図:前肢の標準と不正肢勢。 下図:前肢の正肢勢と不正肢勢。
7)前肢の関節角度と肢勢の欠点について

①前肢上脚部の筋肉が発育し、十分な長さのある前腕と、比較的短い管部の馬は⇔大きなストライドを得ることが出来る。

②腕節や球節:十分な幅と大きさが必要である。

③腱や靭帯が外貌から明瞭に見える管は丈夫で健康な証しである。

④凹膝(おうしつ):屈腱や腕節への負担が大きい⇔屈腱炎や腕節構成骨の剥離骨折を発症いやすい。

⑤湾膝(わんしつ):繋靭帯や屈腱への負担が大きい。

⑥窄膝(さくしつ):腕節の直下がしぼれて狭くなっている⇔腱の発育が不良。

⑦臥繋(ねつなぎ):腱への負担が大きい。

⑧起繋(タチツナギ):骨への衝撃が大きい。

⑨X脚(えっくすきゃく):腕節の内側に負担がかかると共に外側の靭帯にも負担がかかる。

⑩オフセッツニー:腕節と菅骨のラインが腕節で内外にずれた馬⇔内側管骨瘤や腕節の剥離骨折などの問題を起こす。

⑪外向肢勢:繋ぎと蹄が外に向き、腕節や球節の内側に負担⇔球節の剥離骨折を発症しやすい。また、交突にも注が必要。

⑫内向肢勢:内弧歩様となり、腕節や球節に負担⇔動きに無駄が多い、疲労しやすい。

8)歩様と蹄蹟

①外弧歩様:胸が狭く、肢を広く踏む広踏または外向蹄にみる。

②内弧歩様:外弧歩様の逆。

③歩かせてみると、肢軸のコンフォメーションは比較的容易に判別が可能である。

図:標準的な歩様と外弧・内弧歩様の蹄蹟図。

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅴ=

=具体的な相馬の見方について=

前回の講座では総体的に相馬について記述しましたが、今回は馬体各部の詳細な見方、更には外貌から丈夫で健康な馬あるいは不健康な馬にありがちな不都合な部位や名称、加えて各歩法の速度・エネルギー・異常などを知り、各界の馬関係者の目的に合致する馬探しのための基本的な馬体観察の着眼点を養おうではありませんか!!

左側:若馬のゲート練習風景:BTC提供。 
右側:雪上での早朝追い運動中の重種馬群:音更町・菅野政治氏提供。
1)馬を見る着眼点

①わが国では、古くからウマの外貌の特徴を見て吉凶(きっきょう)を占う習慣がありましたが、現在でも外貌や動作等から馬の能力や性格などの良し悪しを見分ける方法『相馬・そうま』があります。その手法の一部としてウマの個体識別や血統登録、そしてウマの売買(セリ)価格の目安などに応用されています。

②ウマを観察する際には、性、年令・月齢、用途、成長・発達具合などを考慮しておかなければならないが、先ずウマの全身を通して全体を把握し、次いで悪い欠点部位ばかりに目をとらわれることなく、ウマの良いところや能力を出すポイント(美格という)を見つけ出す努力をしなければならない。

③良いウマを見出すためには、基本的には多頭数のウマを観察することであるが、大まかな着眼点を挙げておくと、
1健康(生き生きした眼、滑らかな皮膚)と品位(活動的な動作)、
2バランス(美しく、安定した体型)、
3体の線の滑らかさ、
4左右の対称性(つりあい)、
5頸、頭、肩、尻、腕節、飛節などの角度・傾斜、
6欠点(運動能力に主眼)、
7歩様(軽快さ、滑らかさ、確実性)、
8動作(ヒトとの信頼関係、悪癖)などから、個体の特徴と能力を推測し
て総合的に判断することにあります。

④目的:本来の目的は、外貌を観察して能力を推測することにある。
*馬の将来を予測しながらみることが重要。
*馬の全体を把握して、良いところを可能な限り見出すことが大切。

2)馬を見る手順

 *馬学講座Ⅳの図・写真を参照して下さい。

3)全体・全身の見方
(1)性相

①雄馬は男らしく、筋骨逞しく、姿が堂々としている。
②雌馬は女らしく、優美である。

(2)品位

①体の輪郭が鮮明。
②耳が締まり、斜め前方に直立。
③眼は大きく活気がある。
④唇は締まっている。
⑤皮膚が滑らかで毛に光沢がある。

(3)性質

①耳と眼が活き活きとしていて、人間を信頼した動作。

(4)釣り合い(馬学講座Ⅴの図・写真を参照して下さい)

①前駆、中躯、後躯のバランス、胴体と四肢のバランス。
②駐立で四肢に均等に体重をかけ安定させることによって見ることが可能。

4)馬体各部位の詳細な見方と順序
第一:左回りで観察

①正しい姿勢で起立させ、左側から全体を眺め、馬体のバランスを見る。
②要点;頭の大きさ、頸の太さ、前駆の発達、胸の深み、胴の長さ、後駆の発達、躯幹と肢の均衡、蹄の大きさ⇔これらの調和が大切。

第二:頸から背・腰のライン

①ラインのスムーズな流れが大切。
②要点;鬐甲・きこうの高さと背の垂れ具合⇔鬐甲が高すぎると鞍傷を起こしやすい。低い場合⇒鞍が安定しないでズレル(鞍ズレ)。背の垂れている場合⇔後躯の推進力が前肢に伝わらないし、スピードが減殺される。

第三:胸から腹のライン

①このラインは体の成長や調教によって変化が表れるし、乾牧草の摂取量でも変わる。
②乾牧草の多い馬は腹が膨張し⇒乾草腹になる。
③調教が強すぎた馬は巻き腹になる。

第四:頸と頭の高さ

(1)顔と頸
①ウマの顔はヒトの頭に相当し、その頭の形と頸で個体の特徴として区分している。
(2)頭
①直頭(ちょくとう)(額が広く頭が適当な大きさが良い)。
②兎頭(ととう)(サラブレッドとしては美しい形とは言えない)。
③羊頭(ようとう)(アラブ馬でみられ、賢いウマに多い)。
④鮫頭(さめあたま)(サラブレッドに多い。広い額は美しく見える)。
⑤楔頭(くさびあたま)(頭の下が急に細くなっている。)

上図:《頭の区分》;相馬:顔(左上:直頭。右上:兎頭。左中断:羊頭。右中段:半兎頭。左下:楔頭。右下:鮫頭)。
下図:《頸の区分》; 相馬:頚(左上:痩頚。左中段:直頚、斜頚。右上:鹿頚。右下:鵠頚)。

(3)頚
①痩頸(そうけい)(筋肉の発達悪く、ひ弱な感じ)。
②斜頸(ななめくび)(ウマの標準型:頚と頭は水平に対して45°)。
③脂肪頸(種馬のように脂肪がついて盛り上がった太い頸)。
④鵠頸(こうくび)と鹿頸(しかくび)(鵠頸は頸の下縁が湾曲している。逆にそり返った頸を鹿頸と言い、歩幅が伸びない、しかし鵠頸はハミ受けが鋭敏)。

(4)胴と尻と背
①胴はウマの躯幹部で、胸腔に心臓や肺を、腹腔に消化器をいれていることから、この部の形や充実振りから丈夫なウマを推測する。
②短背腰(胴が短く見え、背と腰がしっかりしているウマは後躯の推進力が強い。胴がつまりすぎているウマは歩幅が伸びない)。
③長背腰(背と腰が長すぎるウマは背中の筋肉が疲労し易い。背と腰が長くみえる場合でも胸郭の奥行きの深いものは良い)。
④体高が尻高よりも高いウマは長距離型として好まれ、逆の場合は短距離型として好まれる。
⑤背から腰にかけての背線が凸隆しているウマは肋張りの不足しているものが多く、鯉(こいの)背(せ)と言う。
⑥背線が凹んでいるウマは凹(おう)背(はい)・セッタレと言い、持久力や速力に欠ける。

上図:=相馬:背のライン=(左上:短背腰。右上:長背腰。左下:鯉背。右下:凹背)。
下図:=相馬:胴と尻=尻(左上:正尻。上中:斜尻。右上:平尻。下左:複尻。下右:尖尻)。

(5)腰と尻
①尻は後肢が胴体につらなる部位であることから、推進力や能力に影響するので傾斜、長さ、幅、厚さが重要視される。
②腰と尻のつながりが滑らかで自然に移行しているのが良い。
③腰角から臀端までの尻が長く、幅の広い後躯のウマは、推進力が強い。
④尻と股の長いウマは、後肢の運動の振り幅が大きく、踏み込みが深く、歩幅が大きい。
⑤尻は力強さを感じさせ、深みのあるのが良いが、過度の筋肉や脂肪は良くない。
⑥腰角が著しく突出していて、尻に丸みのないものは栄養が良くない。
⑦尻の中央が窪んで両側が盛り上がり、複尻になっているウマは栄養過多である。

以上の相馬の見方からすれば、以下の①~③は欠点として挙げられる。
①首と頭の相対的に高い馬は好まれない。
②頭の高い馬⇒頭の上下運動が小さく、天井を向いて走ると言われ⇒ストライドが伸びない。
③鼻と咽喉部が一直線にならない馬⇒呼吸がスムーズに長続きしない⇒持久力に欠ける。

(6)主な失格と損徴
失格(しっかく)とは、ウマの用途に適していない体の部位や生まれつきの不適当な構造を言い、損(そん)徴(ちょう)とは後天的な失格を言います。また、ウマの疲労状態を観察する目を養うことも相馬には必要なことである。

=主な失格と損徴=ウマの見分け方(相馬) (馬学下巻、1994、JRA馬事部発行を参考にした)
1.鼻汁流出 ,2.唇下垂、3.兎頭、4.眼病、5.眼盂凹陥、6豚耳、7.顎凹リンパ節腫脹、8.疥癬、9.鬐甲損傷・不良、10.凹背、11.(12)不良の膁(腰接不良)、13.突き出た腰角・腰角欠損、14.斜尻・やせ尻、15.まき腹、16.平肋、17.鼠尾・夏癬、18.飛節軟腫、19.膝関節軟腫、20.膝腱軟腫、21.飛端腫、22.肘腫、23.球節軟腫、24.飛節内踝腫、25.飛節内腫、26.飛節外腫、27.管骨瘤(単一)、28.管骨瘤(連続)、29.指骨瘤、30.窄膝、31.屈腱炎、32.突球、33.球節沈下、34.繋くん、35.熊脚、36.蕪蹄、37.裂蹄(蹄冠裂)、38.裂蹄(負縁裂)、39.冠膝、40.膝瘤。
第五:肩のつくり

①馬の肩甲骨は関節で体幹とつながっていないため⇒しっかり発達した筋肉で取り囲む必要があります⇒例えば体幹・脊椎とつながることによって前肢のスムーズな運びが出来ないことになってしまいます。

②地面からの衝撃は1肢に約2トンの力が負荷されるので、体幹とつながることによって負荷に耐えられない馬体構造になってしまうからです。

第六:胸の深み

①時速60kmで走り続けるには、大きなエネルギーが必要である。エネルギーの源である強力な心臓と肺臓のはいる大きなスペース(胸腔)が必要となります。

②心臓と肺を容れている胸郭の幅と深みのある馬『肋張りの良い馬』が良いことになります。

第七:前肢のライン

①正肢勢⇒肩の中央から垂らした線が前肢の真ん中を通過し、蹄の真後ろに達するのが良い。

②垂線が肢の前に出るのが⇒前踏肢勢、後は後踏肢勢と言いどちらも良くない。

第八:繋・指骨の長短

①指骨(繋骨と冠骨)の長いもの⇒『繋ぎが緩い』と言い、球節が沈下し走行時に腱の負担が大きい⇒腱炎になり易い。

②指骨の短いもの⇒『繋ぎが硬い』と言い、ストライドが伸びません。

第九:蹄の成長発達

①蹄は、栄養状態、放牧環境、病気などで、蹄に悪い変化(蹄輪の変化)『不整蹄輪』が起こります。

②蹄輪が蹄冠と平行して等間隔に年輪の輪のように並んでいるのが良い。

第十:尻の傾斜

①尻の角度はサラブレッドで平均20°で、これより大きいと斜尻(重種馬に多い)と言う。

②ステーヤータイプの競走馬は平均的な尻の角度が良い。尻の角度が大きいと踏み込みが良くない。長躯短背で、体高が尻高より高く、頭が軽く、頸が長く真っ直ぐ伸び、胸幅はやや狭いが肋張りが良く奥行きの長い胸郭をし、四肢はやや細くて長く、前腕部と脛は幅がある馬である。

③スプリンタータイプの競走馬は、四角な感じで肉付きがよく、尻高が体高と等しいかやや高い馬。しかも頭はやや重く、頸が太く、胸幅が広く、肩が厚く、四肢の筋肉がよく発達し、蹄の反回が速やかである馬である。

左図:若馬の冬季の放牧と日光浴:BTC提供。右図:冬季における若馬の騎乗トレーニング:BTC提供。
第11:尻のつくり

①尻には推進力の働きをする大きな臀筋類があること⇒蹴るパワーの源になっているから。

②尻はフックラとした感じが良く、腰角と臀端を結んだ線(尻長)が長いほど推進力がある。

12:後肢のライン

①臀端から垂らした線が飛節の真後ろを通過し、蹄のやや後ろに落ちるのが正肢勢である。

②この線より前が前踏肢勢、後ろが後踏肢勢と言う。ウシに似た極端な前踏みを曲飛と言い、馬の世界では嫌う。

第13:腕節と飛節のつくり

①関節部分の骨が丈夫だと⇒筋肉の伸縮が良いことになる。

②腕節と飛節には筋肉がないので、骨の成長程度を見極め易い⇒当歳時の重要なポイントの一つになる。

第14:腱離れ

①管骨の後ろを走る繋靭帯、浅屈腱、深屈腱が互いに良く乾燥し(各腱の走り・腱溝が明瞭)、管骨と離れて見えるのは『腱離れが良い』と言い、良い評価となる。

第15:栄養スコア

①栄養状態の評価は、肥満や痩せ過ぎで見る。その他にケヅヤの光沢度や蹄の艶(つや)で見る。

②スコアの1から9までの評価で見るが、1は痩せ過ぎ、4~6が正常域である。

左側:BTCの坂路調教場:BTC提供。右側:頭絡の装着作業:AVC提供。
第16:内股の筋肉の発達

①歩行を真後ろから観察⇒常歩や速歩では左右の蹄跡(地面についた足跡)が真っ直ぐ2本の線になる馬は内股の筋肉の発達が良い。

②駆歩やギャロップでは⇒蹄跡が1本の線上にくる馬は⇒内股の筋肉が擦れ合い刺激され、調教により発達した証拠でもある。

③大腿筋膜張筋は後肢を素早く動かす筋で、調教が進むにつれ硬く張り出してくる。

第17:Ⅹ脚とO脚

①馬では少ないが、生まれた時の奇形、あるいは成長過程で蹄底が平らなために膝に負担がかかり、膝が開いてO脚(おーきゃく)になるのがいる。

②子馬の時の削蹄の失宜や不正摩滅には細心の注意が必要。

第18:桃割れ(ももわれ)と編(あみ)笠(がさ)

①馬の真後ろに立ち、臀部を眺めて、尻に皮下脂肪の付き過ぎや筋肉の未発達な状態を観察する。

②背中からの線を中心に、尻が小山のように盛り上った状態を『桃割れ』と言い肥満の程度を示す。

③逆は『編笠』と言い、栄養不良を示す。

第19:尾根の強さ

①尾椎に付いている尾筋が尾根部にしっかりと発達し⇒尾根を自由活達に動かせる状態が良い。

②後駆にパワーのある馬は⇒尾根部が強靭である。

第20:岩陥と筋肉退行変性

①『岩落ち』は筋肉の凹みを言う。後天的な岩落ちは子馬時の注射痕での筋肉発達阻害や、ビタミンE・セレン欠乏症による白筋症を疑う。

第21:広踏みと狭踏み

①一般的には生まれた時の肢勢は⇒広踏みである。逆の肢勢は狭踏みと言う。

第22:内向と外向

①馬の多くは正肢勢だが、蹄が内向きの馬や外向きの馬もいる。

②内向きがきついと走行中に交突しやすく肢を傷つけるが、競走馬は外向きよりも内向きがよい。

第23:良く動く耳

①肉食動物から身を守るために聴覚が非常に発達した馬は⇒耳が四方に自由自在に、任意に動く⇒音の聴く領域が広いことを示す。

②騒音に敏感な馬はメンコをつけ、聴覚を抑えるが、競走能力に影響するので、なるべくなら使わない方がよい。

第24:大きな鼻

①大きな鼻孔は大量の酸素の取込みが良い。

②馬は口呼吸が出来ない⇒鼻孔の大きさで呼吸機能を判断する一つの目安となる。

左右図:馬の手入れ作業:アニマル・ベジテーション・カレッジ(AVC)提供
第25:澄んだ目が良い

①走行能力の高い馬は目が澄んで美しい⇒賢い目。

②視力の弱い女性は相対的に美しい⇒馬は弱視なので、澄んで見えるのかもしれない。

第26:カケスとスクイ

①カケス⇒下顎が小さく、上顎がかぶさるようになっている。

②スクイ⇒カケスの反対。

③何れも上の歯と下の歯の噛み合わせが悪く、歯が伸びっぱなしになり⇒口の中を傷め、十分な咀嚼が出来ないので嫌われる。

第27:蹄壁の角度

①健康な成馬で、前肢は50°、後肢は55°ぐらい。

②後肢の蹄壁を寝かせると⇒後肢の踏み込みがよくなり、走行のストライドが伸びる⇒その分、腱に負担がくるので細心の削蹄技術が求められる。

第28:速歩の柔軟さ

①速歩(ダク)をさせた場合⇒背中に柔軟さがあり、後躯の推進力が背中を通して前駆に充分伝わっているかに注目して観察すること。

②バネのある馬が良い。

③背中が硬く、肢の運びがゴツゴツしたり、尾を内股に巻き込んで速歩する馬は良くない。

左図:伊豆スカイラインからの初秋の富士山。右図:BTC調教センター周辺厩舎群。
第29:馴致の状況

①暴れ馬は良くない⇒人間とのコミュニケーションのとれた馬が良い。

②生まれて直ぐに馴致を開始すること⇒人が馬の体に触れること、駐立させること、肢を挙げるコツなどを根気良く教えること。

第30:短距離型と長距離型

①スプリンター型⇒体高が尻高よりもやや低く、前駆が後駆より優っていて、ズングリした体型⇒胸前や肩の筋肉の張りがしっかりしている馬。

②ステイヤー型⇒体高が尻高よりもやや高く、体長も長く、やや胴長で、体全体がしまっていて、後肢の踏み込みの良い馬⇒持久力を必要とするので胸の深い馬が向いている。

第31:調教の進度判定

①調教期間は、新馬で走るまで約6ヵ月間、古馬では休養後に再出走まで約2ヵ月間必要である。

②心肺を中心に内臓機能は向上し、骨格筋も鍛錬され⇒次第に贅肉がとれ⇒頸、背、腰、胸、腹のあたりがスッキリとし⇒走行に気合い乗りしてくることで判断する。

6)姿勢と肢勢(馬学講座Ⅴの図を参照にして下さい)
(1)姿勢

①休息姿勢;立って休んでいる姿勢を言う。

②強制姿勢;左右の前肢と左右の後肢をそれぞれにそろえて、四肢に均等に体重をかけ、頭頸を正しく前方に向けて立つように、人間が操作してとらせる姿勢を言う⇒共進会・展示用。

③正姿勢;四本の肢を垂直にして体重をささえる姿勢。

④集合姿勢;前肢は前上方から後下方に、後肢は反対に後上方から前下方に向って傾斜するから、下方にいくほど前肢と後肢の間隔が狭くなる姿勢。

⑤開帳姿勢;前後肢の傾斜の方向が集合姿勢と反対に、下方にいくほど前肢と後肢の間隔が広くなる姿勢。

(2)肢勢

①肢勢とは、四本の肢の立っている状態で、基準を馬体の規定の部位から垂直線をとって、それの片寄りを判断して正肢勢と不正肢勢に区別する。

②目的は、肢が正しい骨格の基に構成されていないと、体重の隔たりによって肢に運動器疾患発症、あるいは能力を充分発揮できないので、肢勢の判断を行う。

7)歩法・走法:

=歩法によるエネルギー・消費量=

(1)歩法・走法

①サラブレッドは常歩・なみあし、速歩・はやあし、駆歩・かけあし、襲歩・しゅうほ の4種。

②襲歩は時速60km以上で、瞬間的に四本の肢が地上に浮いている走法。

③肢が地面を離れてから着地までを一完歩(約8m)と言う。疲れると距離が短くなる。

④ウマの重心は、前肢と後肢の負重の比率は60:40で、位置は12肋骨の部位(肋骨の最後尾18本目から胸に向かい7本目)にある。

⑤馬は100mを約1分で歩く。人は普通に歩くと100mを90秒。従って、引き馬の人間はかなりの速足が必要である。

⑥緩い駆歩では対角線の肢が同時に着地する。速歩から駆歩に移るときは左前肢が先行して出た時は【左手前】の駆歩と言う。逆は【右手前】の駆歩と言う。

馬は駆歩の時には脊椎を支柱にしてシーソー運動をしているが、緩い駆歩の時は対角線の足が同時に着地している。

⑦ウマは左回りが得意;一般に右の後肢の力が強い。多くは左手前で走っている(左肩と左前肢主導の走り方)。

⑧体調の良いウマは、下見所でしっかりとハミを咬み、わずかに鶴首にして、厩務員をドンドン引っ張る。

⑨成馬が身体の生命維持に必要なエネルギー量は、安静時には体重1kg当り30㌍必要である。

⑩成馬が常歩で歩くのに必要なエネルギーは1分間25~30㌍消費している。

⑪サラブレッドに速歩(ハヤアシ)をさせると1分間に1ハロン歩く。速歩のときの速度は尋常速歩で秒速3m、伸長速歩で4m程度となる。この時の消費エネルギーは1分間当り100~120㌍である。

⑫サラブレッドが速歩(はやあし)から伸長速歩を更に伸ばした駆歩(かけあし)に変わる速度は、秒速で5.5~6.0mで、ハロンタイムでは36~33秒ぐらいになる。これはゆっくりしたギリギリの駆歩(キャンター)である。ハロン30秒くらいの消費エネルギーは1分間当り300~400㌍で、心拍数は120~130拍程度である。

(2)歩き方=不正や異常な歩き方=

①外向・外弧歩様:蹄が外方に弧を描くように歩く。外向肢勢やⅩ状肢勢の歩様である。

②内向・内弧歩様:蹄が内法に弧を描くように歩く。内向肢勢や0状肢勢の歩様。

③跛行:四肢の運動器管に痛みがある場合:痛いところをなるべく使わないようにするために、肢の運びが異常になる。

④前肢に痛みがある場合:1歩は小さく急であり、痛い肢で着地したときには頭頸を高く上げる。

⑤後肢に痛みがある場合:痛い肢を着地したときに頭頸を下げ、尾を反対に上げる。

⑥跛行には支(柱)跛行、懸(垂)跛行、混(合)跛行がある。

⑦捻転歩:後肢の狭踏肢勢、0状肢勢などにみる。蹄尖を内方に向け着地し、体重をかけてから離地に移ろうとするとき、飛節を外方にひねる。

図:各種歩様の模式図
*上段の歩様⇒常歩の着地模式図。
*中段の歩様:襲歩⇒緩い駆歩では、対角線の肢が同時に着地する。速足から駆歩に移る時、前肢のどちらかが先行する。左前肢が先に出た時は『左手前』の駆歩となり、右前肢が先に出た時は『右手前』の駆歩となる。緩い駆歩の時は、対角線の肢が同時に着地する。
*下段の歩様:速歩⇒サラブレッドの速歩(はやあし)は、尋常あるいは伸長速歩で1分間に約200m歩く。速歩から駈歩(かけあし;キャンター)では、ハロンタイム(約200m)で36~33秒で歩く(ぎりぎりの駆歩)】。

次回の講座は、馬の習性と心理、表情などを記述する予定。

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅵ=

=馬に接する時に必要な馬の習性、心理、癖、及び呼び名について=

*馬を取り扱う者は、馬の表情や癖などを知ること
①馬とのコミュニケーションが上手に取れるようになり、それが騎乗技術につらなり、健康で丈夫な馬飼養管理をスムーズに進行させることにもなるでしょう。

*馬の心理とコミュニケーション
①人間が馬を知りその心理を深く理解することは、日々の練習や調教、競技の円滑さ、快適で安全な厩舎作業に連なる⇔より親密なコミュニケーションを図れることになる。
②馬の乗り方や扱い方、騎乗姿勢等は人間との関係が十分に構築されていない馬ではお互いに理解し合えないことが多い。
③人間は馬の発するボディーランゲージや行動のサインから心理や精神状態(ウマの性質や癖、習性や行動)を理解し、ウマのことを深く感じることが出来るようになれば、様々な方法でコミュニケ-ションを図れるようになるでしょう。

*馬の年齢・性・用途などの区別
①馬(horse)と言った場合、それは馬の総称であり、馬社会では一般用語として年齢、性や用途、成長段階別の呼び名があります。確りとした区分で馬を呼んであげたい。

1.馬の習性
馬の行動図:通常見られる馬の主ないろいろな表情と行動。
1)恐怖性

①驚き易く、恐がりやすい⇒肉食動物に襲われる危険性のもとで進化して獲得されたものを馬は一生涯もっている。

②一刻も速く逃れる⇒鋭い感覚とスピードが発達した←闘争よりも逃走⇒馬本来の自己防衛の有力手段である。

③馬が蹴る動作は、外敵を襲う猛獣の攻撃から逃げ出す前に、常に後肢で近寄ってきた外敵に一撃を加える動作⇒消極的な防衛手段ではあるが。

(1)驚きと恐れの原因

①馬は、初めて見るもの、動くもの、臭い、大きな音などに驚き易い⇒危害を加えるものでないことを充分に納得させ、安全なものであることを記憶させるよう経験を繰り返させて馴らすことが必要である。

②馬は、自分で恐怖心を形成し、それをエスカレートさせてゆく傾向にあることを知っておくこと。

(2)若駒の場合

①競馬場では牧場時代に経験したことのないものが多いので、環境に慣れるまでの数ヵ月間は、移動してきた馬にとって重要な時期である。

(3)「物を見る」と「馬鹿をつく」

①馬が何かに驚くことを『物を見る』と言う。また、騎手・騎乗者の指示に従わないで走路外に逸走(いっそう)したり、膠着(こうちゃく)して動かないような状態を『馬鹿をつく』と言う。

(4)癖馬と矯正

①厩務員は根気強く人への信頼関係を強める努力と、時間をかけて矯正を試みることが肝腎である⇒馬の心理状態を観察し、悪癖の真の原因を見出すこと。

(5)牝馬、牡馬、せん馬

①一般に、牝馬は牡馬よりも驚き易い、せん馬(去勢馬)のほうが牡馬よりもおとなしい傾向にある。

②馬はなにかの「はずみ」で人間が常識では考えられない事柄に対して恐怖を抱き⇒恐ろしい経験を急に思い出し暴れることがある。

2)群居性

①群れをなす習性がある⇒若馬への各種調教には群居性を上手く利用して数頭のグループで行うのが良い。

②例えば、レース中の落馬で、他の馬と共にゴールするのは、群れから離れまいとする習性が馬には残っていることを示している。

③厩舎に1頭だけ置き去りにされると騒ぐ⇒馬は仲間を求める欲求の非常に強い「淋しがり屋」な動物であることを示している。

④『ウシの一散・いっさん』:ゆったりしたウシでも逃走距離内に敵が入り込むと一斉に走り出すなど。普段決断の遅い者が、深く考えずにむやみにはやりたつことのたとえに使われる。

⑤動物の行動パターンは『採食』、『繁殖』、『自己防衛』の三つからなる。

*野生動物達は、同種の個体間、あるいは異種の動物の間(特に草食動物と肉食動物)には一定の距離をおいて生活をしている。
*草食動物は距離を絶えず測っている見張りがいて、その情報によって群れ全体が動く。シマウマ、アンテロープ、キリンなどが典型的である。

⑥『千羊も独虎を防ぐこと能わず;センヨウもドッコをふせぐことアタワず』:
羊が千頭いても虎一頭の攻撃を防ぐことが出来ないという意味。

*襲ったり襲われたりすることは、種の保存の意味からすれば、肉食動物と草食動物のバランスがとれていることになる。
*シカやアンテロープは、角を武器に肉食動物と戦う。
*キリンやシマウマは、蹄を利用して強烈なキックで対応する。特にシマウマは互いに頭を中央に集めて円陣を組み、後肢で強力な蹴りを行う。
*ジャコウウシは、中央にメスや子供を入れ、集団で円陣を組み、角を外に向け戦う。

⑦群れの利点:
*『ウマはウマ連れ』、『ウシはウシ連れ』⇔同種や似た者同士が集まるということ。同種あるいは似た者同士が一緒に行動すると物事がうまくゆくことのたとえ⇒反対に仲間外れ状態を『ウマにまじりたるウシ』という。

⇒哺乳動物が群れ・仲間を確認するためには、先ずは相手の臭いを嗅ぐので、嗅覚が第1である。
*敵に対しての集団防衛。
*集団はオスとメスが出あう機会が多くなり、種の存続が容易となる。
*仲間であるためには、仲間同士の共通のコミュニケーション手段を持つ必要がある。
*群れの中の親からコミュニケーションの手段を学ぶことが多い⇔『ウシは牛連れ、ウマは馬連れ』のことわざは幼児体験の重要性を意味している。

3)社会性
(1)馬のコミュニケーション

①馬同士では嘶き(いななき)や表情、行動などで意思の伝達をし合う⇒社会的順位の高い馬が耳を伏せて追い払う行動などが該当する。

②臭いの重要性は、発情牝馬の臭いに敏感に行動することからも理解される。

(2)模倣性

①馬は他の馬の行動を真似る習性がある。⇒1頭の馬が走り出すと他の馬も走り出す⇒野生時代の危険を回避するための行動である。ゲート馴致での経験馬の誘導などに応用される。

(3)順位性

①ハーレム群での構成メンバー間では社会的順位がある。
②群形成後、1週間程度で社会的順位が形成され、長期間同じ順位が維持される。

4)情操性

①馬は仲間を慕う時や、淋しい環境に置かれると、遠くから仲間を呼びかける親和性がある。⇒飼い主や馬取扱い者を慕う、住んでいるネコやイヌ、ウサギなどと仲良くなるなど。

(1)親子の場合

①馬は親子の情愛は非常に深い⇒馬の嗅覚に基づく点が多い⇒馬は乳母を作りやすい動物でもある。

(2)現役の競走馬の場合

①「牝牡1歳にして席を同じにせず」である⇒指定結婚は競走馬の宿命。

2.馬の表情

①一般に、動物は怒った時は体を大きくし、恐怖の時は身体を縮める傾向にある。

1)驚いた時

①耳を驚いた物の方向に向け、眼はその物を凝視し、鼻孔を広げて浅い呼吸をする。頚を垂直にするほど高く起こし、後肢を踏み込み、後駆を低くする⇒直ちに逃げ出せる姿勢をとる。

2)恐ろしがった時

①耳を後ろに倒し、頚や頭を前方に出して、後駆を低くして、尾を肢の間に曲げ込む。眼を対象物から他に移し、後退するかあるいは逃げ出そうとする。 

上側:驚きの表情。
下側:咬もうとした時、威嚇、攻撃の表情。
3)怒った時

①耳を後方に押し倒し、頭を前に出して、咬みつく時のように前歯をむき出す。

4)咬もうとした時

①眼に敵意を現し、耳を後方に倒し、頚を下げて咬もうとする方向に出し、口唇を動かし、前歯をむき出す。

5)蹴ろうとする時

①耳を後方に倒し、頚を下げ、奇妙な横目をつかって蹴ろうとする方向を見る。⇒蹴らせないためには頚を高く保持すること。

6)疲れた時

①頚を下げ、眼の動きや耳の動きが鈍くなり、動作が緩慢。後肢の一方が疲れている場合はその肢の蹄踵を挙げ、蹄尖だけを地面につけて休む。前肢が後肢の表情と同様な場合は筋肉や腱の疲労、骨折しているときである。

7)気持ちが良い時

①頚を前方に伸ばし、眼を細くして気持ちよさそうな表情をする。
②快感興奮のため緊張した時には尾を高くあげる。

8)媚びる時

①眼を細め、顔を人にすり寄せてくる。

上側:蹴り上げと前叩きの表情・姿勢。下側:屈服、フレーメン、あくび、官能的喜びの表情。
9)痒い時

①痒いところを蹄でかいたり、咬んだりする。

10)壮快な時

①ヒヒーンと嘶き、尾を高くあげて走り出す。

②嘶きには3種類ある。
*遠くの仲間を呼ぶ時;高く強く、長く嘶く。
*食べ物を欲している時;深く、静かに、短い。
*欲情の時;深く、強く、長く嘶く。

③呻き声には2種類あるが、どちらも短く、深い低音を段発的に出す。
*恐怖、憎悪、憤怒の時;うなり声。
*苦痛・苦悶の時;もだえ声。

上側:子馬の遊び。
下側:ウマの休息時の姿勢:サラブレッドの皮膚は薄いので、短時間の横寝睡眠行動をとる(多くは立ったままの睡眠を断続的にとっている)⇔長時間寝る姿勢・睡眠を取ると血行障害を発症し褥瘡(じょくそう)を発症する(走る馬ほど皮膚が薄い)。
上側:ウマの寝起きと砂遊びの姿勢。
下側:仮眠と睡眠、苦しみの表情。
11)欲望がかなえられた時

①喜んで頭を上げて振り、耳をピクピク動かして嘶く。

②前がきは空腹や腹痛に耐えられない時の動作。

3.馬の癖

*元来は馬をはじめ群れで生活している動物を単独で飼った場合は、悪癖が出てくる。⇔群れでは仲間との交流が可能だが、単独ではチャンスが無く単調の繰り返し(競走馬、乗馬や動物園の馬など)で、欲求不満が蓄積されて起こる⇒従って、群れに戻し、習性行動が完結できる環境条件を与えてやれば、異常行動は消失するのが普通である。

1)癖について

①人間と同様に馬も無くて七癖がある。異常行動には三種類ある。
*柵癖、熊癖など同じ行動を際限なく繰り返す常道的異常行動。
*蹴癖、後退癖など学習により獲得された異常行動。
*その他に異嗜などの栄養状態や健康状態に起因すると推定される異常行動。

②道的異常行動は、遺伝的素因が背景にあると考えられていて、矯正には困難が伴う。

③学習によって獲得された個体の癖として固定された異常行動は、根気よく努力を重ねれば強制は可能である。

(1)さく癖

①グイッポと俗にいわれる空気を呑み込む癖。矯正は難しいが柵癖矯正バンドなどを用いる。
②遺伝的素因による。
③矯正には、馬房の中に馬が口をかけられる突起物をなくす。手術での神経切断もある。
④馬房内での退屈さや空腹などで起こっている場合は、原因を取り除いてやること。

左側:さく癖:風気疝になり易。AVC提供。右側:「くまゆすり・ふなゆすり」の癖:AVC提供
(2)後退癖

①『あとびき』とも言う。張り馬された馬が引き手を引っ張るように後退する癖を言う。

(3)熊癖(ゆうへき)

①『船ゆすり』とも言う。馬房の中で前肢を開き、左右交互に体重をかけ、身体をゆする癖。

左側:咬む癖:この馬は左目に旧い角膜炎があり左側から近づくと咬む仕草をする。AVC提供。
右側:見知らぬ人を臭いで判断・何かをねだっている:AVC提供。
(4)異嗜(いし)

①健康で正常な馬の食性からは口にしない糞、砂、壁土などを食べたり、金属性のものを舐める馬を言う。

②骨軟症、ビタミン欠乏症、寄生虫症、アルカリ塩欠乏症、タンパク質・アミノ酸の欠乏、慢性胃腸炎などの併発に多い行動である。慢性消化器障害発症馬に起こることもある。

(5)その他の癖

①出走中に出る癖;内外へ急激によれる癖、ラチに寄っていく癖、膠着して動かなくなる癖、尾を振る癖など。

②咬癖、蹴癖、立ち上がる癖、叩く癖、抱く癖など⇔飼養管理、育成、馴致の失敗によって習癖となったものが多い。

左側:若馬のトレーニング風景、BTC提供。 右側:夕暮れ時の田貫湖からの富士山。
4.馬の年齢、成長、性、用途別の呼び名
1)年齢による馬の呼び名

①5歳以下;幼齢あるいは幼駒。

②6歳~15歳;壮齢馬。

③16歳以上;老齢馬。

④8.9歳~12.3歳;最も体力の旺盛な時期のウマ。

2)成長段階区分の呼び名(サラブレッド)

①幼駒;出生直後~約2ヵ月齢。

②育成初期;出生~6ヵ月乃至7ヵ月齢。

③育成中期;初期以降~18ヵ月齢。

④育成後期;中期以降~2歳数ヵ月齢。

⑤競走期;競走馬として登録され、トレーニングセンターへ入厩後から競走馬の用途変更がなされるまで。

⑥繁殖期;凡そ競走期終了後から繁殖終了まで。

3)性や用途での呼び名

①子馬(foal):1歳未満の子馬(別名、0歳あるいは当歳とも言う)。

②子馬(weanling):離乳した子馬。

③子馬(yearling):1~2歳の子馬。

④牡馬:
若牡(colt);1~4歳の牡。
牡馬(stallion);種牡馬。
牡馬(entire);一般牡馬。
父馬(sire);血統上用いる。

⑤牝馬:
若牝(filly);1~4歳の牝馬。
牝馬(mare);成牝馬。
母馬(dam);血統上用いる。

⑥騙馬(gelding):2歳以前に去勢した去勢馬。

⑦騙馬(stag):成馬になってから去勢した馬。

⑧乗用馬(riding horse)

⑨競走馬(race horse)

⑩輓曳馬(draft horse/draught horse)

*このコーナーで使用した手書き図の多くは日本中央競馬会 馬事部発行・馬学上巻(平成3年)を参考にしたことを明記しておきます。
次回は、馬との良好なコミュニケーションに役立てるために、視覚、嗅覚、聴覚、味覚、皮膚感覚などの『感覚器官』について記述します。

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅶ=

=馬の感覚器、記憶と馴致について=

馬で最も大切な感覚器官は嗅覚であり、視覚、聴覚、味覚そして皮膚感覚がある。これらの構造と機能のメカニズムを知ることは、日常の馬とのコミュニケーションの取り方や飼養管理、馴致調教に役立ち、しかも扱い易い健康な馬づくりに人馬共に役立てることが可能となる!!

Ⅵ-1図:各感覚器の細胞模式図と伝達経路図:
刺激を受けた各種感覚細胞は、⇒脳・脊髄に伝え、瞬時に感覚情報を判断・分析し⇒末梢の器官へと伝導し行動を開始する。眼は視覚を、耳は聴覚を、鼻は嗅覚を、舌は味覚を、そして皮膚は触覚として働いているのである。
①動物の感覚器についての諺・言葉:

*感覚器としての眼、耳、鼻等には、『馬の耳に念仏』、『犬に論語』、『猫に小判』、『豚に真珠』⇔無駄なことをする喩え・たとえ言葉がある⇔どんなに立派な真理や道理を説いても解かろうとしない者には効果がなく無駄であることの意味を示した諺・ことわざである。
しかし、動物の感覚からみて、行動を理解する場合、人間の尺度で判断してしまうと、往々にして誤解につながり、時には危険を伴うこともある。

*鳥類は、眼の動物である。空中を飛ぶ鳥類の生活は視覚に多くを頼っている⇔頭部の大部分は眼球であることからも伺える。

*哺乳類は、鼻の動物である。哺乳類(キリンを除く)は、視界が狭く、地上の近くに顔があり、鼻はその先端に位置し、嗅覚を働かせるには好都合な体型である。特に肉食動物は獲物を探索するには臭いが重要である。

②鼻(臭い、尿、糞、テリトリー)に関連した諺:

*多くの哺乳動物は自分の仲間としての認識は臭いで行うのが普通である。

*『犬にかけ尿・ばり』⇔犬が所かまわず放尿すること⇔なんでも手当たり次第に手をつけて行動するたとえを言う。

*犬;脂肪酸(汗、糞、血液に含まれる)の識別力に優れ、鼻腔には臭い細胞が2億2千万個もある。因みに人間は約100万個であると言われている。

*テリトリー(縄張り)を示すものは⇒糞や尿による。
 カバ;糞をできるだけ遠くへ飛ばすために尾で振り飛ばす。
 サイ:糞の塊を後肢で蹴り飛ばす。

*哺乳動物は、鼻の動物と言われるほど嗅覚が敏感である。

*トラ、ライオン、オオカミ、ジャッカルなどの肉食動物は、尿が主役である。

*イヌは、尿の臭いでどんな性別(特に発情期)、大きさ(片足を上げてできるだけ高いところに放尿)、テリトリー、仲間うちかを正確に嗅ぎ分けている。

*シマウマは、動物園で馬房を掃除し、寝藁を新しくした場合にはわざわざ放尿をして濡らすらしい。

*ネコ:『猫が糞を踏む(ねこがふんをふむ)』:猫が糞をした後、足で土や砂をかけて隠す行動はまるで悪事を隠すかのように見えることから、悪事を隠して知らぬ顔をすることのたとえに用いられる。『猫糞;ねこばば』⇔猫の習性だが、学者によっては社会的に下位のネコが自らの存在を弱めるために臭気の強い糞を隠す行為であるとする⇒強い野良猫はこの行動をしないらしい。

③動物の感覚・縄張り(三つの標識):

*捕食獣は、縄張り意識として、動くものに対して反射的に追いかける行動が誘発され⇒特に敏感に察知する視覚的な縄張り行動がある。

視覚的な標識;背の高いキリンのように、居るだけで縄張り効果を発揮。
聴覚的な標識;鳥の囀り・さえずりのように、繁殖期間に聞く囀り、大声で 吠えるホエザルやテナガザル。
嗅覚的な標識;イヌやカバのように糞や尿、シカは特別な腺からの分泌液の臭いによる縄張り・マーキング。

④動物の集団行動・防御について:

『ウシの一散・いっさん』:ゆったりしたウシでも逃走距離内に敵が入り込むと一斉に走り出す。⇔普段決断の遅い者が、深く考えずにむやみにはやりたつことのたとえ。
*動物の行動パターンは『採食』、『繁殖』、『自己防衛』の三つからなる。

*野生動物達は、同種の個体間、あるいは異種の動物の間(特に草食動物と肉食動物)には一定の距離をおいて生活をしている。

*草食動物は距離を絶えず測っている見張りがいて、その情報によって群れ全体が動く⇒シマウマ、アンテロープ、キリンなど。

『千羊も独虎を防ぐこと能わず(せんようもドッコをふせぐことあたわず)』:羊が千頭いても虎一頭の攻撃を防ぐことの出来ないという意味。

*捕食の関係は、種の保存の意味から考えれば、肉食と草食動物のバランスがとれていることになる。

*肉食動物からの防御:シカやアンテロープは角を武器に肉食動物と戦う。

*キリンやシマウマは、蹄を利用して強烈なキックで対応する⇔特にシマウマは頭を円の中央に集めて円陣を組み、後肢で強力な蹴りを行う。

*ジャコウウシは、中央にメスや子供を入れ、集団で円陣を組み、角を外に向けて戦う。

⑤群れの利点:

『ウマはウマ連れ』、『ウシはウシ連れ』;同種や似た者同士が集まるということ。同種あるいは似た者同士が一緒に行動すると物事がうまくゆくことのたとえ⇒反対に仲間外れ状態を『ウマにまじりたるウシ』という。哺乳動物が群れを確認するためには、先ずは相手の臭いを嗅ぐので、嗅覚が第一である。

*群れ集団の利点;
敵に対しての集団防衛。
オスとメスが出あう機会が多くなり、種の存続が容易となる。
仲間であるためには、仲間同士の共通のコミュニケーション手段を持つ必要がある。
群れの中での親からコミュニケーションの手段を学ぶことが多い⇔『ウシは牛連れ、ウマは馬連れ』のことわざは幼児体験の重要性を意味している。

1)視覚
(1)視野

①馬の眼球は、縦径と横径が共に約48㎜で、陸生哺乳動物では最も大きい。

②格別広いパノラマ的な視野を持っている。

③大きな眼は、頭部の両側に付き、瞳孔は横長に開き、馬の視野は350度に及ぶ。

(2)距離感

①肉食動物は、顔の前面に両眼がある⇒両方の眼で1つのものを見るのに都合がよい位置にある⇔物が立体的に見え、正確な奥行きや距離感覚が得られ易い⇒獲物を追うには都合がよい。

②馬の場合は、眼が頭部の側面にあるため、立体視の範囲が狭い、視野の5分の4以上は単眼による視野なので、視覚による距離の判断はできない。

(3)焦点合わせ

①多くの動物は、水晶体の厚みを変えること(毛様体の収縮と弛緩による)で対象物への焦点を合わせている。

②馬の場合は、水晶体は大きいが、毛様体筋の発達が貧弱で焦点合わせは不完全⇒それを補うために、遠くを見るときは顎を引き上目使いに、近くはその反対で顎を上げて注視する⇔遠近両用のメガネを使っている状態である。

(4)夜間の視力

①馬の目の網膜の後ろにタペタム(輝板;かがやく板で光を反射させる)が存在しているので、夜間の目は良く利く。

(5)視覚

①視覚範囲は狭い。(人間は虹の7色を区分することができる)

②馬は黄色を最もよく識別でき、次いで緑で、青、赤、紫の順に劣る。

Ⅵ-2 馬の眼球模式図と部位名称:

(6)馬の眼・視覚に関する日本の諺・言葉

*生き馬の目を抜く(いきうまのめをぬく):
 事をなし、利を得るのに素早い様の意味で、『生き牛の目をクジル』とも言う⇔のんびりした田舎と違い、危険が多い都会の生活への警戒の言葉で、利益を得るのに機敏な人のことを言う。馬の目は弱視で色の識別弱く、残像時間が短く、タペタムで夜でも見え、鼻先は見えにくく、近くは焦点が合わせ難いので、馬に声をかけないで真正面から近づくと驚き威嚇するので、よほど素早く行動を起こさなければならない。

*黄なる涙:
 一般に動物が悲しんで流す涙の事を言う。
 馬は涙腺から漿液を分泌し、涙嚢に貯え、涙鼻管を通じて鼻水として出るが、ダートレースでは創傷性角膜炎を起こしやすい。眼を強く閉じて涙を流す⇔感情で流すかは不明。

Ⅵ-3 馬の涙器:涙腺から出た涙は涙嚢に貯まり、最終的には鼻腔に流れ出る仕組み。
2)聴覚

①馬は、耳は長くて大きい、耳介筋が発達している。耳を動かして周囲を警戒(情報収集)。

②動物の声は、主に音による感情表現として聞き分けている。

③従って、声は動物の感情を察知するのに都合が良い。

④祖先が群れをなして生活していた動物は、仲間同士のコミュニケーションに音声を使う。

⑤キリンは、鳴き声をほとんど発しない⇒背が高い(5m)、見晴の良い場所にいて、視力が抜群に良い⇔音声でのコミュニケーションの必要なし。

⑥『牛がいななき馬が吠える』;本来の鳴き方と違って⇔物事の逆さまなことのたとえ。

⑦動物には、それぞれ特有の鳴き方と感情表現がある。

⑧イヌの鳴き声;
吠え声;ワンワン⇔警戒や喜び⇔英語ではパウワウ(Bowwow!)。
鼻声:クンクン⇔甘え声。(Sniff)
喉声(のどごえ);アーアー⇔機嫌の良い時、アクビ(Yawn)。
唸り声;ウーウッ;相手を脅す時。(Growl)
高鳴き(たかなき);キャンキャン⇔痛い時、恐ろしいことが起こった時。Yap,Yelp
遠吠え;オーオー⇔遠くの仲間を呼ぶ時。(Howl, Bay)
ネコのニャーニャーは、英語ではミュウミュウ(mew-mew;Miaow)である

⑨馬の鳴き声;英語
Neigh;いななき、ヒヒーン
Snicker;イヒヒヒかヒンヒン
Suiff或はSuiffle;フンフン
Snort;鼻息でフーッ
Snuff或はSnuffle;嗅ぐときでフンフン
Spit;怒った時でシューの音
Squank;キーキー
Whinny;嬉しい時のヒンヒン
Whistle;ヒューという鋭い音

⑩成牛の鳴き声;英語
MM型;唸り声に近く、口はほとんど閉じ、声は弱い
MOO型;後半は口が開いている。日本のモーに相当
MOH型;後半に強い声を出すため横隔膜を収縮させる。子ウシ型

(1)聴覚域

①馬の聞き取れる周波数の範囲は、人(2万ヘルツ)よりも高音(3万ヘルツ)である。

②人の可聴範囲を超える周波数を超音波と言う。

③イヌ8万ヘルツ、ネコ5万ヘルツ、コウモリ10万ヘルツ、イルカ15万ヘルツなので、馬の可聴範囲は人に近い。

(2)方向認知と反響定位

①馬は両方の耳介を音響のほうに向けることによりその方向を、音が左右の耳に到達する時間差によりその距離を判断している。

②馬は両眼視野が狭く、視覚による距離の識別領域が限定されている⇒聴覚による距離や方向性の識別能力を発達させた。(鳥類は視覚を発達。馬は視覚よりも聴覚や臭覚を発達)。

③自ら発した音の反響音を聞いて対象物の位置や形状を知る反響定位も利用している⇒蹄の立てる音や鼻を鳴らして出す音の反響音を反響定位の際の音源としている。

Ⅵ-4図:馬の耳の構造と部位名称の模式図

(3)騒音と馬

①聞き慣れない音に対して馬は異常な恐れを持つ⇒大きな音でも自分に危害や痛みがおよばないことが分かれば、すぐに馴れる。

②耳に届く騒音を遮断して、落ち着きを持たせる目的で耳を覆うフード(メンコ)を用いる⇒聴覚を遮断するので、パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性もある。

(4)馬の耳・聴覚に関する日本の諺・言葉

*馬の耳に風⇔馬耳東風とも言う。
馬の耳に風を受けても感じないことから、人の意見に少しも感ぜず、聞き流していることのたとえ。

*馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ):
馬の耳に念仏を聞かせても、その有り難味がわからないように、いくら説き聞かせても何の効きめもないたとえで、『犬に論語(いぬにろんご)』、『兎に祭文(うさぎにさいもん)』、『牛に経文(うしにきょうもん)』などといわれる。しかし、馬の耳は、視力があまりよくないので聴覚が非常に良く発達した。耳を良く動かし、周囲の遠くて小さい音まで聞き分けることが出来るのが馬である。

2)嗅覚
(1)馬の鼻

①鼻腔の発達と臼歯の著しい発達が、結果として馬の顔面を長いものにした。

②鼻腔深部の粘膜には、嗅細胞が良く発達し、馬にとって最も重要で敏感な感覚器である。

③人や他の馬、飼料、厩舎、場所、馬具などの臭いを嗅ぎ分けることができる。

(2)臭いへの関心

①嗅覚は、視覚の不十分な点を補っている。

②騎手は、各障害に馬を近寄せ、障害を良く見せ、よく嗅がせている⇒これは障害の位置を視覚と嗅覚から確認・記憶をさせている。

③若駒は、匂いに強い関心を示し、新しい人、新しい厩舎、新しい馬具など、初めてのものは十分に納得ゆくまで嗅がないと落ち着かない。

(3)子育てと匂い

①馬の子育てには嗅覚が重要な役割を果たしている。

②母馬は、産んだ子をなめ続ける⇒子馬の体を早く乾かすと同時に母馬が子馬の匂いを学習している。

③牡馬は牝馬の発情状態を尿の匂いで判断している。発情した牝馬の尿には牡馬の性行動を活発化させる物質が含まれている。

(4)フレーメン

①馬が頸を突き出し、上唇を巻き上げている表情を云う。馬が匂いをより鋭敏に感じとろうとしている動作である。

②馬の鼻腔の下側には鋤鼻器(じょびき)と呼ばれる空洞がある。この内部には匂いを感じる嗅細胞が多量にある。馬がフレーメンをする⇒鼻孔は閉じられ⇒鋤鼻器の内部が陰圧⇒吸い込んでいた空気が鋤鼻器に流れ込む⇒嗅細胞を刺激する⇔各種臭いを判断。

③牝馬の発情時のみならずいろんな刺激臭でフレーメンを起こす⇒どんな臭いでも脳にある性行動と関連の深い部位(間脳)に伝達されるためである。

Ⅵ-5(上図):馬の鼻端(鼻憩室の部位:憩室と鼻腔の関係⇔馬がフレーメンやブルブル音を出す部位)。
Ⅵ-6(下図):鼻、鼻腔、及び口腔(正中断面、鼻中隔を切除した図)。
Ⅵ-7(上図):嗅部の粘膜構造図。
Ⅵ-8(下図):嗅上皮細胞拡大像並びに臭神経経路。
(5)馬の鼻・嗅覚に関する日本の諺・言葉

*馬の餞(うまのはなむけ):
 旅立つ人を送る時、その馬を行く先に鼻づらを向けて安全を祈ったことから、この言葉が生まれた。その後、旅立つ人へ贈る品の意味になった⇒餞別。

*老(お)いたる馬は路(みち)を忘れず:
 経験を積んだものは、その行くべき所を忘れないと言うたとえで⇒譜代の恩義を蒙った者は何時までも元の主人を忘れないという意味である。
動物の通った道を忘れないのは、イヌはオシッコの臭いで嗅覚を利用、ヒツジは蹄尖部からの分泌脂肪の臭い、魚は河川の臭いから判断しているらしい。
 馬は厩舎や馬房の臭い・自分の排泄糞、わずかだが視力が弱いので色の識別での視覚でも記憶する。馬はあまり長く記憶することができないが、痛さやいじめには長時間記憶があり、成馬では厩務員にはいつも恩義を感じている。

Ⅵ-9 図:馬の鼻腔と副鼻腔模式図(矢状断。鼻中隔と鼻甲介の壁の一部を除いてある)。
鼻腔とは:
*鼻中隔で左右に区分され、馬では鼻腔後方で合流して咽頭に連絡する。
*鼻粘膜の作用;(エアコンの作用)①外鼻孔を通じ吸い込まれた空気に適度な温度を粘膜面の豊富な血管で与える。②湿度を鼻腺、外側鼻腔の分泌物により与える。③空気中のホコリを粘膜面に吸着する。④肺や気管に及ぼす外界のショックを軽減する。⑤鼻腔の複雑な道程は、鼻粘膜と空気の接触面を増すことに一層効果的に作用している。
副鼻腔とは:
*鼻腔を囲む各種の頭蓋骨の骨洞で鼻腔と連絡している。内腔は鼻粘膜の連続で被われ空気を含んでいる。もともとは鼻腔の憩室として発達したものである。
4)味覚

①一般に馬は、甘味を好み、苦味や酸味は避ける傾向にある。
②馬が採食する時は、先ず見て、匂いを嗅いで、それから食べて味を確認する。
③変質した穀類を良く水洗して悪臭を取り除いたり、飼い葉桶の腐敗臭を清掃するなどによって同じものでも食べる⇒馬は味覚よりも嗅覚が食欲にとってより重要な役割を占めていることを表している。

Ⅵ-10(上図):舌(背側面)と舌小帯部と喉頭部模式図。
Ⅵ-11(下図):味雷の仕組みと味覚の伝導路。
5)皮膚感覚(触覚、温覚、痛覚)
(1)触覚

①物を触ってみようとした時の馬は、前肢の蹄、口唇、舌、上唇などを使う。
②前肢は運動の際の触覚器官、上唇は非常に敏感で触毛が多く生え、鼻端とともに良く発達していて触った感覚で判断をする。
③馬を愛撫するときに、頸筋を軽くたたくが、この部は敏感で馬は落ち着き、心拍数が低下することからも解かる。

(2)温覚

①皮膚の他に口腔、鼻腔、軟口蓋、肛門の粘膜などにある。
②温点と寒点があるが、寒点の数のほうが多く皮膚の表面近くに分布している。
③上唇や鼻端のような触角の鋭敏な部分はむしろ鈍い。

(3)痛覚

①全身に分布しているが、口、上唇、蹄冠などが鋭敏である。
②四肢のどこかに痛みがあれば跛行を示す。ハミは痛みに鋭敏な口に取り付けている。

Ⅵ-12(上側):皮膚の模式図;表皮は刺激から守る層、真皮は脂腺や汗腺、感覚器、血管があり、身体の防御や体温調節をしている層。特に馬の汗腺はアポクリン腺からだけの汗で、人には他に臭いや粘性の強いエクリン腺がある。毛は毛根で作られる。
Ⅵ-13(下側):皮膚の終末神経模式図: 触覚・圧覚;指先や顔面に多く分布し、触覚(しょっかく)はマイネル触覚小体とメンケル触覚小体で毛包に終わる神経終末が受容体で(Ⅵ-1図を参照)、圧覚はファーター・パチニ層板小体とゴルジ・マッツオニ小体が受容体となる。温度覚;冷点は温点よりも密度が高く、冷覚はクラウゼ小体が、温覚はルフィニ小体が受容器である⇔各感覚は各神経終末で感じる。
(4)馬の皮膚・汗腺・毛に関する日本の諺・言葉

①皮膚;『馬革(うまがわ)に屍(しかばね)をつつむ』:勇士が戦場で死ぬことを言う。また、従軍の上は、生還を期さない覚悟のことを言う。

②汗腺;『汗を揉む(あせをもむ)』:
馬は汗をかくことから、汗をかくほど良く働くという意味。

③汗腺;『汗血馬(かんけつば)』:
一日に千里を走り,血のような汗を流したという馬を言う。『麒驥(きき)』も汗血馬の別称であるが、馬はもともと汗かきで、長距離を駆歩で走りぬくと汗をかくが騏驥も血が混じるのでしょうか?

④毛;『野髪(のがみ)』:
  馬の鬣(たてがみ)の手入れをせず自然に垂れたものを言う。
 放牧中のドサンコの鬣はまさに野髪で特異な毛色を持つ。しかし、
  手入れされた野髪の髪は風にふかれてなびき、一気にマグマが爆発したような感じをもつ。

⑤毛;『馬尾毛(ばす)』:
 馬の尻尾の毛のこと。馬の尻尾の毛は、湿度計、弦などに使われている。
モンゴルでは馬頭琴に毛を束ねてつかう。
 中国の二胡(にこ)は二弦で、馬尾の毛の束を弦と弦の間に挟んで、摩擦して奏でる。日本では、二弦琴や大正琴がある。

(5)寒さ暑さ対応:環境順化

①動物は環境(暑さ寒さ)の変化に順応する能力がある。

②サラブレッドはアラブ地方原産なので、寒さには概して強い。

③寒さに対してイヌは強く、ネコは弱い。

④イヌの祖先はオオカミで、ヨーロッパから北米の比較的寒冷地帯に祖先を持ち、1万年以上前に家畜化されている。

⑤ネコは、エジプトで家畜化(7千年前)され、かなり暑い気候であるので、寒がりやである。

Ⅵ-14(左側):BTCの屋内坂路馬場;BTC提供。 
Ⅵ-15(右側):家畜改良センター十勝牧場での重種馬の冬季追い運動風景;音更町菅野政治氏提供。
10.記憶と馴致
(1)知能

①知能を知る手立てとして、電気ショックによる反応や回避行動、脳の大きさ、などがあるが正確な判断は困難。

②『馬に馬鹿はなくて人に馬鹿あり』⇒バカは馬と鹿の字をあてるが、馬や鹿をバカな動物と見なすのは間違いで、むしろ人間のなかにバカの者がいる。

③科学的知能検査;最近は円形の違いを識別させる方法で検査している。

④この検査成績では、ウマ、ロバ、シマウマ、ゾウで比較した場合⇒ウマとゾウはロバとシマウマに比較して極めて優れていた⇔かなりの知能を持つ動物である。⇒だから象と馬は人間の命令を正しく理解し、人と友好を結ぶ代表的な動物となり得たのでしょう。

(2)記憶力

①馬の記憶力は非常に良い。特に恐怖や痛み。

②馬が一度覚えたことを忘れさせるのはとても苦労する。(ゲートでの恐怖、他馬との接触・転倒、負傷などの記憶)。

③『ウマに道まかす』『老いたるウマは道を忘れず』、『老馬の道しるべ』⇒道に迷ったときは、老馬を先頭にたてれば必ず求める道に出る⇔経験を積んだ者の知恵を尊ぶたとえ。

④『サルの人真似;さるのひとまね』:深く考えもせずに他人の言動を真似すること⇔人間は悪いほうにとってしまうが、決してそうではない。
多くの動物の行動様式は、群の仲間の行動を模倣して学習することから始まる⇔人口保育された動物は、成長しても同種の仲間・群れ集団の中で孤立してしまうことが多いらしい。
『真似る』という行動は、その動物の一生を左右しかねない大事なことである。幼駒の生産牧場での放牧は大切な学習・真似の期間なのです。
『学ぶは真似に通ずる』、この原則は程度の差こそあれ、人も動物も変わらない。

(3)調教馴致への応用

①馬の調教・馴致には、馬の記憶についての習性を活用するように心がけ、命令に正しく従った時の愛撫や、命令に従わないときの罰の与え方に注意する。

②若駒には、簡単明瞭、そしてゆっくりあせらず調教をすすめていく配慮が必要である。

③馬はもともと温順であるが、恐怖心を強く持ち易い動物であることを肝に命じて調教馴致を行うこと。

(4)馴致の手段(愛撫は懲戒に勝るものはない)

①愛撫;掌で顔、背などを毛並みに沿って撫でたり、軽く叩いてやる。鼻梁その他に触られると親近感を持つ。手入れをしてやることも愛撫である。

②懲戒;声や鞭、時には拍車を使う。大きな声で叱る(声による威嚇)。

③愛撫と懲戒のタイミング;チャンスを逸せずに与えること。

④調教馴致の要諦(ようてい);馬の心をつかむこと。

⑤馬は人の顔色を読んだり、騎乗者の技術を判断する能力は驚くほど発達しているので注意。

⑥馬が悪い習性を見せたら、『騎手の乗り方が正しくない』か、それとも『取り扱い者のまずさ』による⇔このことを忘れずに馴致することが大切。

(5)馬の感覚・心理からの人と馬とのコミュニケーション

①馬とより親密なコミュニケーションを図るためには、人間が馬の感覚器官の特性を知り、その心理状態を深く理解することが大切である。特に人間は、言葉を用いて相手・動物とのコミュニケーションを取ろうとするため、言語を持たない馬・動物の心理状態を把握するのは全く苦手である。一方の動物は人間の微妙な態度や仕草を読み取って行動しているのである。

②この基本的な違いを知ることは、日々の練習やトレーニング、競技での円滑な動作、または日常の快適で安全な作業に連なることになるでしょう。

③馬の乗り方や扱い方、騎乗姿勢等は人間との関係が十分に構築されていない馬ではお互いに理解し合えないことが多い。

④人間は馬の発する行動のサインから心理や精神状態(ウマの性質や癖、習性や行動)を理解し、ウマのことを深く感じることが出来るようになれば、様々な方法でコミュニケ-ションを図れるようになるでしょう。

次回は馬・サラブレッドの体型や走法・歩法などの進化について記述の予定。

馬病理医の呟き=やさしい馬学講座Ⅷ=

1.=サラブレッドの四肢の進化について=

現在の日本における馬世界ではサラブレッド主体の状況になってしまった。著者もサラブレッドの世界・研究で生きてきた一人ではあるが、決してサラブレッド種イコール馬ではないことを感じている。しかし日本の馬産業界をリードしているのは紛れもなくサラブレッドの競走馬なのです。ここでは、馬と言う概念のもとにそのサラブレッドが如何に速く走るための馬体の進化・体型を遂げてきたのかについて、速く走るために発症している疾患等から考えてみようではありませんか。乗用馬を含めて健康な馬づくりのヒントが得られることでしょう!!

1)サラブッレドの三大父祖馬

先ず《三大父祖馬》と言われている馬を簡単に照会しましょう。
①東洋系の馬と交配して→サラブレッドがつくられた。

②《サラブレッド》:「Thoroughbred⇔thorough;完全な、bred; 血⇒純血種 の意味」。

③バイヤリー・ターク(Byerly Turk;1686年生まれ、バイアリー大尉が トルコ軍から略奪、黒鹿毛♂、アラビア馬)。

④ダーレー・アラビアン(Darley Arabian;1700年生まれ、 鹿毛 ♂)。

⑤ゴドルフィン・アラビアン(Godolphin Arabian;1724年まれ、 黒鹿毛 ♂)。

図8-1左側:三つ葉ツツジ:高山不動尊近在の山林で撮影。図8-2右側:わが家の庭に冬眠のために突然現れたカエル・両生類の珍客。
2).馬属の進化(考古学-化石馬の調査から)

始生代→原生代→古生代→中生代→新生代
|   |   |   |  |  
      ↓         ↓
両生類の時代-爬虫類の時代→哺乳動物の時代→ウマの出現;曙のウマ;エオヒップスの誕生)。

①始新世の地層から約5,000~6,500万年前に出土したエオヒップス以来、ウマの進化に伴って以下の点が大きく変化・進化している。

②躯体が大型になった。

③中脚(なかあし)の第三指・趾以外の指が退化して、第三指・趾のみが長く大型化した(前肢を指、後肢を趾で表示する)。

④脊椎の彎曲(わんきょく)の度合いが少なくなり、極端な柔軟性を欠くようになった。

⑤切歯の幅が広くなった。

⑥小臼歯が大臼歯化した。

⑦歯冠(しかん)が高くなった。

⑧下顎骨(かがくこつ)が大型化した。

⑨脳が大型化し、複雑化した。

⑩以上の変化は、馬が全て肉食動物から逃れるためと、主食であった栄養価の低いイネ科植物との相互作用の産物によるものなのです。

図8-3 馬の前肢下脚部の進化過程模式図と現代人の手骨図を対比させて表示した:③で説明したように速く走るために人間の中指・第3列・中手骨のみを進化させたのが馬なのです。
(1)エオヒップス(ヒラコテリウム)

①5,000~6,500万年前のウマ(現在のキツネの体型に似た外観)。

②体高;25cm-45cm。背中は弓状に曲がり、高い後躯。尾は長く太い。

③四肢;4指と3趾の馬
 前肢;第一指(内側)の完全消失・第三指が最も大きい・第2・4 指はやや小・第5指は更に小・先端に蹄あり。
 後肢;3本趾で最も大きい・第2~第4趾全てで機能あり。

④その他;北米のワイオミングの始新世の地層から馬の化石の発見(馬の祖先とした);発見者マーシュ教授は「あけぼのの馬:Horse of Dawn 」としてエオピックス(Eohippusと命名⇔始新世;Eoceneと ギリシャ語の馬;Hipposの合成語)。

(2)メソヒップス

①3,000万年前のウマ。

②体高:50cm。

③現代の馬によく似ている。しかし、まだ顎(あご)は浅く、目は前の方に位置し、胴は長く細い、背中は後方に湾曲していた。

④四肢:
  第3指は更に大きく、太い。
  第2・4 指は小さくなる(辛うじて地面に着く程度)。
  第5指は消失・肢は長くて細い。

⑤その他:地球の温暖化により、アメリカ大陸で森林が衰退し→同時に湿原が狭くなる→大地が固まり→馬が疾走を習慣とするに相応しい環境になってきた。

(3)メリクヒップス

①1,500万年~1,000万年前のウマ。

②体高:90cm。

③頭は現在の馬と非常によく似ている。目の位置も後方にある。

④四肢:
  指は3本のまま。
  馬の体重を中央の大きな指で支えていた。尺骨と腓骨は徐々に退化。

⑤その他:メリクヒップスの以後、ヒッパリオンと北アメリカだけに住んでいたネオヒッパリオンやナンニップスの3グループに分かれる。
  ヒッパリオンはヨーロッパとアジアに広く分布→後にアフリカで生きながらえ、シマウマの先祖となる。

(4)プリオヒップス

①500万年前のウマ(現世のウマ科動物に直接つながる動物)。
②四 肢:第2・4 指骨は殆ど消失、四肢上端の皮膚の中に隠(かく)れている。
③北アメリカから→陸続きだったベーリング地峽を通って→ユーラシア大陸へ移動 (氷河期が訪れて食物が無くなったため)。
        ↓
アジア大陸やヨーロッパ大陸に広く分布( 地形、気候風土に順応して更に進化)。
        ↓
エクウスの誕生 (現代の馬となる)。
④現在の馬の進化は数千万年の経過をたどったことになる。
        ↓
エオヒップス→エクウス。
        ↑
身体は大きくなりながら→足は速く、バネの力を持つ動物として進化。
        ↓
*足の長さを増す(下脚部(かきゃくぶ)の骨が長くなる)。
*筋肉は足の上脚部で太くなる。
*下脚部の筋肉は腱として発達・進化。
*丈夫な蹄を持つ。

図8-4馬の四肢下脚部(腕節の骨から蹄骨まで)の進化過程図:エオヒップスからエクウスまでの進化。

(5)エクウス(3タイプあり)

①エクウス属の中でも染色体が64本のものが家畜馬と考えられている。

(5)-1 草原タイプ(エクウス・フェルス) の馬
①代表馬:プルツェワルスキーウマ(別名モウコノウマ)←発見者のロシア人の名前(1881年)からつけられている。

②生息地:現在も野生馬として西中国のアルタイと新キョウ 地方及び蒙古の草原(約50頭)に生存。現在、ヒトの管理下のもとで1,000頭以上のウマが120箇所にのぼる世界各地の施設・動物園(200頭)で飼育されている。

③体高:130cm。体型は小形で、粗野な家畜馬に似ている。たてがみは短く立ち、まえがみはない。

④毛色:イサベラ(黄色で、飛節から下と尾の一部が黒色)。

⑤系統:フランスのマドレーヌ洞窟に描かれた馬の系統。

⑥草原馬の一種にシマウマがいて以下の特徴がある。
*バーチャルシマウマ、ヤシマシマウマ、グレビーシマウマの3種からなる。
*バーチャルシマウマは、サハラ砂漠以南の東アフリカのサバンナに生息(サバンナシマウマ;染色体44)。
*ヤマシマシマウマ(ケープタンシマウマ:染色体32)は、南アフリカのケープ岬に少頭数が生息。腰部に横切る細い縞模様がある。頸の下部に肉垂をもつ。 
*グレビーシマウマ(染色体46)は、中・北アルリカ東方寄りの半砂漠地帯に10~30頭の小群をつくり生息。草や木の葉を常食。神経質で臆病。温和で飼い易い。

図8-5 シマウマの特徴的縞模様の模式図:
図8-6左側:BTCの芝トレーニング場:BTC提供。
図8-7右側:グラントシマウマ・サバンナシマウマ:富士サファリパークにて。

(5)-2 高原タイプ(エクウス・グメリオ) の馬
①代表馬:タルパン。

②生息地:ポーランドからウクライナ地方。

③現在生息地:野生のタルパンは 100年前に絶滅。現在は一部動物園で保護。

④体高:120cm。

⑤系 統:イギリス及びその周辺諸島の各種ポニーの祖先。

(5) -3 森林タイプ(エクウス・アベリー)の馬
①代表馬:森林タルパン。

②生息地:中部ヨーロッパの森林。

③現在生息地:野生馬は絶滅。

④体高:胴が大きく・四肢が短い。

⑤系 統:重量のある輓馬の祖先(フランスのコンバイユ洞窟に描かれている)。

3)歩行運動の進化

①魚→両生類→爬虫類→哺乳類へと進化するごとに生き物の四肢の構造は変化し、それに伴い姿勢・肢勢に変化が現れ、歩行方法もより複雑で高度なものとなっていった。

②ウマはより速く、疲れにくい歩行方法を目指して進化し、それに最も適した四肢の構造と走り方を獲得した⇔人間はこの歩行の進化を上手に利用した。

図8-8左側:動物の肢勢の進化模式図 A;両生類や初期の爬虫類などにみる《はう型》。B;獣形類などの《中立型》。C;恐竜、鳥類、哺乳類などの《直立型》。D;ヒトの《完全直立型》。
図8-9右側:ボタンの一輪。
(1)肢の獲得

①両生類;3億5千万年前に肉鰭類(にくきるい)という魚の仲間から肢が進化した。

②肉鰭類;胸鰭(むなびれ)や腹鰭(はらびれ)の根部に骨格を有している。

③現在生息しているのはシーラカンスや肺魚である。(空気呼吸ができるので→次第に陸上へ進出);胸鰭と腹鰭を肢として発達させ、両生類へ進化。

④四肢;現在の両生類に比べ遙に未発達。

⑤歩行:動物の四肢の基本数は4本であり←魚の泳ぎ方とも深い関係があり。腹部を地面につけ、這(は)う様に移動していた。

⑥魚類は、身体を左右に苦練(くね)らせ、尾鰭(おびれ)で水を後方へ押し推進力にし、両側の胸鰭と腹鰭は泳ぐ方向や上昇・下降に、あるいはブレーキの役割(動物の四肢が鰭から発生したとすれば、魚の時代に決定されていたことを示している)を持っている。

(2) 常歩(なみあし)の獲得

①最も原始的な歩き方である。
(魚類から進化した両生類によって獲得された歩行)

②古代の両生類:
*現存しているオオサンショウオによく似た姿で歩く。
*身体の大きさに比べ小さく貧弱な四肢は身体の両側に突出している。
*移動しない時、腹部を地面につけて休む。
*歩く時、魚が泳ぐ様に身体を左右に苦練らせ、それに合わせて、四肢を前方に突き出している。
*ヒジ(肘)やヒザ(膝)を身体の横方向に向けている←そのため、肢を前に振り出す時には、上腕骨や大腿骨を車輪の軸のように回転させる(ヒジやヒザ以下の振り子作動を行って歩いている)。

(3)速歩(はやあし)の獲得

①爬虫類:
 常歩よりも速く走れる速走(四肢を全て地に着けない時を持った歩法)を獲得した。両生類に比べ、四肢の構造が発達←四肢で身体を支えやすくなったために出来る技である。

②哺乳類の祖先である獣型爬虫類(恐竜):
*前後肢の長さをほぼ同じに保ったまま、四肢を垂直方向に伸ばし同時に前肢のヒジを後方に、後肢のヒザを前方に向けることに成功した。その結果肩甲骨と寛骨、そして上腕骨と大腿骨は傾斜が逆になり(くの字型構造)、脊椎を挟んで対称的に配置し、体の安定性をはかっている(ハの字型構造)。その典型的な骨の配置は馬なのです。
*このハの字型構造は、体を支え易く、立っている時の安定性の向上、四肢の振り子動作を円滑にすることに役立っている。

(4) 駈歩(かけあし)・襲歩(しゅうほ)の獲得

①哺乳類になってからの歩法→四肢の発達のみでなく、速く走るためには身体全体の構造変化が必要である。

②身体を支え易くするため→四肢を身体の真下に垂直に置く(背から眺めても四肢を見ることが出来ない)。

③爬虫類までは関節部で行われていた「骨の成長」が関節の近くの「骨端軟骨」で行われる←関節そのものは体重を支え易い構造に発達した。

④両生類や爬虫類の長くて太い尾が→短くなり→それまで後肢に近いところにあった「重心」が「前肢の近くに移動」←そのため、頭や頚の位置を変えることにより重心の位置を容易に前後左右に移動させることが可能となった。

⑤脊椎の上下方向への屈曲が比較的たやすく出来るようになった。

⑥「魚類の左右に苦練らせて泳ぐ動作」から駈歩や襲歩という四肢動物にとって画期的な歩法を獲得したことになる。

⑦例えば「イルカ」や「クジラ」のような水生哺乳類は脊椎を上下に屈曲させて泳ぐ→彼らの祖先が陸上にいた時の歩法の「名残(なごり)」を表わしている。

図8-10左側:BTCのダート走路:BTC提供。 図8-11右側:シャクヤクの一輪。
4)蹄の獲得

①速く走るためには蹄をもち→単位時間当たりの歩数(ピッチ) を増加させ→歩巾(ストライド) を伸ばすこと。

②ピッチを上げるために
  →筋肉をより速く動かす。→肢の下部(下脚部)を軽くし、上部に筋肉を集中させる。
  →振り子動作の周期を短くして効率を良くする。
  ⇒そのため、馬の腕節や飛節から下の下脚部に筋肉が殆どない。
  ⇒腕節から下は細くて長い腱によってコントロールされている。

③ストライドを伸ばすために
  →肢の長さを伸ばす。→尺取虫(しゃくとりむし)のように脊椎を屈曲させて身体を進展させる。
  →四肢全てを地面から離して跳躍する。

④爪先立ち
  →草を主食とするウマやウシは、消化器が複雑で重く、身体も大型化するので椎骨の連結が固くなり、脊椎の柔軟性が低い。
  →この不利を補うため肢端の接地部分を少なくし、趾先(つまさき)だけで立ち肢の長さを増す。

⑤肢端の皮膚を保護する必要から蹄を持った
  →指先・趾先だけで立つようになると→全ての指・趾(指;前肢を、趾;後肢を表す)を接地させるのが困難となる→ウマは第3指・趾、ウシは第4指・趾のみで身体を支えるようになった
  →指・趾端にかかる負担は大きくなる。→そこで皮膚を角質化させ→爪に発達させ蹄壁と蹄底をつくる。→更に蹄叉(ていさ)ができ、蹄が完成した。

図8-12左側:わが家のバラ。 図8-13右側:BTC調教場利用者の馬運車:BTC提供。
(1)蹄(hoof)について

①蹄は、爪先で立ち、速く走るために生まれた馬のためのもの(運動器として発達)と表現しても過言ではない。

②鈎爪(claw)はイヌ・ネコ。扁爪(ひらづめ)はヒト・サル。蹄(皮爪)はウマ・ウシで代表される爪(nail)である。

③蹄を構成する蹄壁はヒトの爪に相当し、蹄底はヒトの爪の先端にある皮膚との隙間に相当し、蹄叉はヒトの指紋のある部分に相当している。

④《蹄機=蹄の変形》:  
*蹄に体重圧がかかることによって→蹄骨と冠骨が後方に沈下→蹄軟骨と蹠枕(せきちん)を圧迫→その結果、蹄球は後方に沈下→蹄の後半分が側方へ押されて広がる→蹄底や蹄叉は後下方に沈下する→蹄が地面から離れると元に戻る←蹄機という言葉で馬社会では使われている。

⑤《蹄の変形・作用》について:馬の蹄には必要不可欠な作用である。
*蹄内部の血液の流れをよくする。
*蹄角質の成長を早める。
*着地の衝撃を和らげる。
*蹄の離地を助け、歩行を軽快にする。
*蹄鉄を装着しなかった跣蹄馬は路面に密着し、蹄の滑走を防ぐ。

図8-14 馬で代表される奇蹄類の指の進化過程を人間の指との比較で表示した:結果として指先に負担・全体重の負荷がかかるために、皮膚を角質化させて蹄を備えることになった。
5)歩行のタイプ
(1) 蹠行型(せきこうがた)

①ヒト・ネズミ・クマ等の歩くタイプに分類される。

②ウマで言えば、飛節から下を接地させて歩く。

③このタイプは、最も基本的な歩き方である;
生活様式の違いにより爪には 偏爪(ひらづめ)と鈎爪(かぎづめ)がある。

④走るには不利。

⑤接地面積が広く安定性が高いので後肢だけで立ち上がり可能。

⑥前肢を自由に使うのに便利。

(2) 趾行型(しこうがた)

①イヌ・ネコ・チータ等の肉食動物の歩行タイプに分類される。

②ウマで言えば球節から下を接地させて歩いている。

③走るにも獲物を捕まえるにも木に登るにも適した形態。鈎爪である。

(3)蹄行型(ていこうがた)

①ウマの肢蹄はより速く走るために獲得された進化の頂点を示す歩行のタイプに分類される。

②全て一直線に四肢を伸ばし、接地する指・趾端は第3指・趾骨を囲む蹄(蹄匣ていこう)をそなえている。

図8-15左側:現在の馬の退化しつつある骨(赤字)。体の安定性にハの字型骨構成(赤線)、くの字型骨構成(黒線)を図示。図8-16右側:八景島水族館:ミナミオットセイ(鰭脚型歩行)骨格標本。
(4)鰭足型(ひれあしがた)

①アザラシやオットセイ等が水中で泳ぎ、陸上で歩く時のタイプに分類。

②後肢は尾のように見えるが趾骨間に水掻(みずか)き様の皮膚を持つ。

③哺乳動物であることから、水中での後肢は上下に運動させ、推進力や方向転換等に使う。

2.走能力の獲得・改善
1)大きな心臓と刺激伝導系

①体重比:
*ウマ:体重500kg/心臓4.0kg;0.98%(ヒトは0.5%で2倍以上の大きさ)、輓馬;0.61%、牛;0.35%、豚:0.30%。
*ヒト:体重70kg/心臓⇔0.3kg;0.42%。
*ウシ;体重比0.35%。

②馬の酸素の取り入れる能力:
*馬は85ℓ/1分⇒人間の約5.5倍/体重1㎏当たりの酸素を体に送り込んでいる。360ℓ/1分の血液を送り込んでいる。

③心拍数
*サラブレッドはレース中最大230~240心拍数で、安静時(30~35/1分)の約8倍多くなる。
*心臓の刺激伝導系になっている特殊心筋細胞(プルキンエ細胞)は、ヒトを含む多くの哺乳動物で心内膜下層に限って分布している。
*ウマを含む有蹄類と鳥類の特殊心筋は、心内膜下層から心外膜下層に向け深く侵入している(特殊心筋の分布が広範囲なほど速く心臓が収縮できる)、しかも。心室は内外ともに同時に収縮することが可能で、収縮効率がよい。
*例えば鳥類は、気圧の低い上空での飛翔や長距離の疾走に耐える低酸素耐性にすぐれた動物である。素晴らしい運動能力も持ち合わせていることになる。

④サラブレッドはレースで、スタート前のゲート内で既に心拍数の上昇、更にスタート直後に急激な増加、最大心拍数に達していく。ゴール後は急激に減少し約半数の心拍数になる。⇔このような回復力の状態は訓練や調教によるものである。
*馬は肢のバネで走るため、速いスピードで安定して長距離を走ることが可能
である。
*犬は背と肢を使い全身を使って走るために、エネルギーのロスが大きく疲
れやすい。

図8-17:人間と馬との刺激伝導系並びに心電図波形の比較模式図。
2)走能力の獲得

①ウマの祖先であるエオピックス(5,500~6,500万年前)から現在のエクウス(200万年前)になるまで天敵である肉食動物との血みどろの生活が約4,800万年間以上続いた。この間にウマは走るための各種の器官の進化を獲得した。

②ウマは長い進化の過程(環境適応)で以下の機能を得た。
*環境適応手段(草食動物)
走って逃げるのに都合のよい蹄。
*骨の改造(進化骨と退化骨)。
*群れをつくる。
*スタミナのある効率のよい心臓。
*効率的に長距離を走るための脾臓(ウマの脾臓→血液を貯蔵→走る時に末梢へ流す→正常の1.5 倍の濃度・赤血球数となる)。

②赤血球;
*ヒト 450万~ 500万/1mm3
*ウマ 800万~1,000万/1mm3
*赤血球の大きさはヒトの半分程度(総合的に表面積が大きくなるために大量の酸素の運搬を可能にしている)。

3)走る能力の開発

①ウマのスタミナと瞬発力は、肉食動物より劣っている。

②サラブレッドの改良の目標をスピードの1点に絞り、300年以上の時間を賭けて選抜を繰り返してきた。

③イギリスのレース記録(2,400mのオークス・雌馬、2,400mのダービー、 3,000mのセントレジャー)からして、1910年頃までは著明に短縮している。しかし、その後はほぼ一定の水準を維持している。

④このことは20世紀初期に走能力に関する内因性要素の改良が限界に達し、外因性要素が記録に影響していることを推察させる(21世紀に入ってからも記録が必ずしも安定していないことからも分かる)。

⑤走能力の開発にはウマが飼育されている環境要因を有効活用することにつきる。

4)遺伝的素質

①競走能力は40%が遺伝的素質による(60%は生後の飼養管理改善が重要視される)。即ち、遺伝的素質の開花は、例えば幼駒~育成期の昼夜放牧などによって行われる可能性がある。

②遺伝的素質は、父方が80%、母方40%の影響力を持つとされる。

③性差;
雄馬が強いことは、2,400m~3,200mのレースであるイギリスダービー、イギリスセントレジャー、日本ダービー、天皇賞等の雌馬の優勝回数の少ないことからも判る。

5)走る能力の改善

①ウマの在胎日数は平均 333日、生後→6ヵ月で離乳。離乳後直ちに速く走るための器官の発達・発育が急速に行なわれる。

②潜存的な能力を開花させること。そのためには個体ごとの健常な発育と個体ごとの自然な体力の向上を阻害しないこと。

③ヒトとウマとの出生直後からのコミュニケーションが最大のポイントで、次いで健康で十分な発育・発達をさせるための日本の気候風土からなる環境要因を上手に活用すること。

④馬体の屋台骨(柱)である骨の化骨は2~5年で下脚部の骨から脊椎に向って完成・成熟するため、各骨の発育成長期に沿って発育・発達をさせること。

⑤サラブレッドは、骨をつくってから心臓機能や筋腱の鍛錬、そして自律神経系の機能として副交感神経系の緊張度が強くVagotonia(ワゴトニー) となり易い;迷走神経緊張亢進(脈管運動性不安定、便秘、発汗、不随意運動性痙攣)となり易いので、日常の飼養管理と牧場の自然環境を十分に生かして育成すること。

⑥遺伝的にスピード能力が限界にきている現在、サラブレッドの改良は骨格の確りした繁殖牝馬(完璧な骨格牝馬はいない)に、その不足部分を補うような種牡馬(現在の日本には世界に冠たる種牡馬が多数いる)を選んで交配すること。ウマの体重は500kg以下(理想的には480kg)が望ましいとされる。

⑦サラブレッドは、2歳から年齢が上がるにしたがって平均走破タイムが速くなり4歳には最も速くなるが、5歳以降では少しずつ遅くなっていく。1年間のうち9月と10月の秋に記録的には最も速い。体力面からみたサラブレッドは3歳の秋ごろまでに95%が出来上がり、4歳秋には肉体的・精神的にほぼ完成しているのかもしれない。しかし、早熟や晩熟のウマのいることから一概には言えない。

⑧競走馬は、走る能力改善のために1791年以来、直接交配馬のみが血統登録されている。ウマは温暖地(宮崎・鹿児島)よりも寒冷地(青森・北海道)の方が成績の優秀なウマが多い(産駒数も特段に多い)→寒冷地で生産・育成をして訓練することにより→交感神経機能が刺激され→いざという時(瞬時)の神経機能が促進した結果であろうと言われている。

⑨自律神経系とは;意識しないままに反応する不随意器管(心臓、胃、腸、血管など)を反射的に働かせている神経の総称で、交感神経系と副交感神経系の2系があり、互いに調節しながら動物に調和のある行動をとらせている。

⑩走能力の改善には、環境に適応したウマの体質(骨、筋肉、関節、運動神経)をつくること。それにはウマの置かれている環境因子を有効利用・活用することにつきる。
⑪環境因子(environmental factor)とは;以下の各因子が単一あるいは複合して生体に影響している。

*気候的因子;(温度、湿度、風速等)。

*物理化学的因子;(騒音、振動、薬物、臭気物質等)。

*栄養的因子;(飼料の質と量等)。

*生物的因子;(細菌、ウィルス、寄生虫等の異種生物因子と同種生物間の社会的要因)。

6)動物の走力

①『牛の歩・あゆみも千里』、『牛も千里、馬も千里』⇔遅い牛でも歩き続ければ千里に達する、怠けず持続することにより必ず成果があることのたとえ。速い・遅いの違いがあっても結局同じ所に到達することのたとえでもある。

②走力を時速で表すと;
チータ;112㎞、モウコガゼル;96㎞、トムソンガゼル;80㎞、競走馬;77㎞、オオカミ;72㎞、ハイイロギツネ;69㎞。オグロジカ;65㎞、シマウマ;64㎞、ライオン;64㎞、アフリカスイギュウ;56㎞、イノシシ;48㎞、アフリカゾウ;40㎞、ラクダ;32㎞、ブタ;17㎞、バク;16㎞。

③持続力では;
*チータ⇔走り出してわずか2秒で時速72㎞に達するが、500m以上は続かない。
*オオカミ⇔最高速度は72㎞だが、持続力に優れ、かなりのスピードを保ちながら一夜に70㎞を走破したという記録がある。
*競走馬⇔ゲートを出てから400mのタイムが24秒程度と加速がすばらしい(乗用車なみ)⇒これは強力な筋肉と丈夫な肢、全身に血液を送る心臓の働きなどにある。
心臓の体重比;ウマ・競走馬で1.1%、ウシやブタで0.4%以下。馬は爆発的な走力、ウシは持続型の心臓であるとされる。

図8-18 BTC調教センター周辺の冬季の厩舎群:BTC提供
3.走る能力の阻害

①不整脈(房室ブロック・結滞脈が出易い)、心臓突然死が多い。

②運動器の障害(骨折、腱炎、靱帯炎、骨膜炎、脱臼、跛行、筋痛、蹄疾患など)が多い:例えばレース中の骨折の発症は全出走頭数の2%、骨折馬の約8割以上が中手骨に病変(骨膜炎や骨瘤など)の既往歴があり(1本肢で立ち走るため)。骨折はウマと馬場、騎乗者の総合要因で発症するが、ウマ側の要因としては未完成期の若馬への毎日の過激なトレーニングによる疲労(骨、筋肉、腱、関節、神経)の蓄積と骨軟骨症病変が骨折を誘引している。

③一方、競馬場のバンクの効いているコーナーは本来のウマの馬体構造(特に四肢の構造)である平坦地を直線的に疾走する機能を阻害することになる。

『以上(馬学講座Ⅰ~Ⅷ)の主な内容・図等は、多くの参考書や文献(269件)と共に岡部利雄監修・馬の品種図鑑(1968)、日本中央競馬会・馬学・上下巻(1991)、永田雄三監修・馬学上下巻(2006)、中川志郎・ことばの民俗学・日本の自然を伝えることわざ(1988)、橋本善春訳・馬の解剖アトラス(1997)を基本資料として参考・引用させて戴いたことを改めて明記します』

次回からは、馬装具について呟いてみたい。

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